長生きしたいなら医者より歯医者?

2020年、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック開催の年となりました。
皆様、本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
年末年始の休診中、老後の生き方について特集されたある雑誌の「長生きしたいなら医者より歯医者」という記事が目に留まりました。
記事を書かれているのは歯周病治療を専門とされている歯科医師です。

歯を失う最大の要因が歯周病で、その割合は約40%を占めているという報告があります。次の要因が約30%を占める虫歯で、その次が歯根破折となっています。このなかで最も怖いのは歯周病で、それは以下の理由によります。

まず歯周病は虫歯と異なり、かなり進行するまで症状が自覚しにくい点があります。また、複数の歯が同時に罹患する傾向にあります。ブラッシング時の出血などで異常を確認できますが、殆どの方は見過ごしてしまうか、もしくは気が付いても大したことはないとの自己判断で放置されてしまいがちです。歯がぐらつくようになり、ようやく歯科医院を受診しても、その時には既に重度の歯周病で、そう遠くない将来、一度に複数の歯を失うことになります。

そして、歯を失うことと同時に怖いのは歯周病と全身疾患との関わりです。
歯周病と関係する全身疾患は現在、判っているだけで、糖代謝異常、心臓・脳血管障害、呼吸器系疾患などが挙げられます。何れも歯周病菌あるいは歯周病菌が産生する物質が血管を介して他の臓器に移動することにより引き起こされるのです。具体的な病気としては糖尿病、狭心症・心筋梗塞、アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎、骨粗鬆症、早産・低体重児、EDなどとなります。

一般的な健康診断や人間ドックでは血液検査、CT検査、レントゲン検査、超音波検査などで体の隅々まで調べるのに対し、歯科検診はオプションですら含まれていないのが現状です。従って歯科医院で定期的に口腔内を診てもらうことは、虫歯や歯周病から歯を守るだけでなく、全身疾患を予防するという重要な意味合いを持っていると言えます。
また、虫歯や歯周病のみならず、芸能人が患ったことで有名になった口腔ガンなどの軟組織疾患もあります。全身のPET検査で発見されることもありますが、歯科医院で口腔内を診てもらえば容易に発見できます。

当院は京橋というオフィス街にあるため、多くのビジネスパーソンが定期検診にお越しになりますが、お忙しい方ほど会計時に3ヶ月後、6ヶ月後と次回の検診のお約束を取って行かれるようです。口腔内を健康に保つことの重要性を理解されていらっしゃるのだと思います。

本コラムをお読み頂いている皆さん、医者より歯医者が大事かどうかは別として、健康寿命を延ばすことを希望されるのであれば、歯の健康を保つことは重要です。
歯科医院で定期的なケアを受けて頂くことをお勧めします。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

天野篤先生の教え

先日、私が所属しているインプラントに関する勉強会、Club22(22はインプラントの素材であるチタンの原子番号)の勉強会が開催されました。勉強会ではいつもどなたか外来の講師をお招きし、特別講演をしていただくのが恒例となっています。今回の講師は上皇陛下の心臓手術を担当されたことで有名な順天堂大学教授の天野篤先生でした。

以前、私は天野先生の著書を拝読したことがあり、講演の内容は既に知っていることも多く、スムーズに頭の中に入ってきました。医師としての考え方やキャリアの積み上げ方など、これからの私にとって進むべき道を考えさせられる内容が多かったのですが、その中で特に最近、私自身が考えていることと合致するお話があり、非常に共感を覚えました。

それは、「同じ結果が出せるなら、仕事はスピーディーな方が良い」ということです。

治療時間が短縮されることにより、患者さんの身体的な負担も軽くなりますし、限られた診療時間内に、より多くの患者さんを治療できるようになります。奇しくも先日、「先生は手が早いですね!」との患者さんのコメントを受付がブログで書いておりました。

以前の私は、各患者さんに十分(過ぎる)時間をとり、ゆったりと仕事をしていました。その方が良い仕事ができると考えていたからです。ところが、最近は歯根破折保存治療を希望される患者さんが増え、患者さんにとっては、抜歯か否かの瀬戸際ですので、少しでも早く診てほしいとキャンセル待ちをされているような状況です。歯科医師1名体制の当院の許容を超える状態となり、これではダメだと考えるようになりました。

「患者さんのご希望に沿うためにはどうしたらよいか?」、自分自身に喝を入れて意識を変え、術式も工夫し、以前の3分の2の時間で処置を行うことができるようになりました。
このようにお話すると、ブログの患者さんのお言葉ではありませんが、手抜きでは?とお感じになる方もおられるかもしれませんが、術式の変更前後で得られる結果には変わりはありません。

ただ、このシステムを遂行していくためには治療前の準備と治療後の整理が必須となります。準備は前日の診療終了後に始まり、翌日の全ての患者さんの治療内容を確認し、頭の中でシミュレーションを行い、効率的な手順を検討します。翌日の治療時に手や頭が働かないような無駄な時間を作らないように集中し、診療終了後は限られた時間内に記録できなかった内容をカルテに記載していきます。ここまでやって1日の診療が終了です。

世の中では働き方改革が叫ばれ、当院でもスタッフにはなるべく残業を減らし、自分の時間を確保するように指導しているのですが、わが身を顧みると、全く世の流れに逆行しているようです。
神の手を持つ天野先生だったらもっと効率的に仕事ができると思うのですが、私は凡人なので、同じようには参りませんね。それでも来年からは更なる効率化を図り、診療室での滞在時間を多少なりとも短縮していきたいものです。

大きな柱を失いました。

院長の吉田です。
大変悲しいお知らせがあります。
既に公にされているため、私からお伝えすることに支障はないと思われますが、歯根破折保存治療の開発者である眞坂信夫先生が先月初旬、逝去されました。
以前から体調が思わしくないことは伺っておりましたが、7月の定例のWEB会議ではお元気に発言されておられたため、突然の訃報に絶句しました。

以前のコラムでも紹介させて頂きましたが、眞坂先生は私の歯科医師人生における4人の師のうちの1人です。
4人の師のうち、関根弘先生には歯科治療・研究への姿勢とその取り組み方を、小宮山彌太郎先生には欠損補綴の切り札であるインプラント療法とそれに取り組む歯科医師の姿勢を、アメリカのテル・ハラダ先生には、歯の最も大切な機能である噛み合わせの基本と開業医のあるべき姿を教わりました。

最後の眞坂信夫先生には、通常なら抜歯適用となる破折歯を抜かずに残す技術とその価値を教えて頂きました。歯根破折は虫歯、歯周病に次ぐ3番目の抜歯理由ですが、眞坂先生はこれを抜かずに残す方法を開発し、治療法の普及のため講習会等を開き、他の歯科医師に惜しみなく伝達してこられました。

歯科医師向けのみならず、一般の患者さんにも本療法を伝える努力をされて、PDM21(Professional Dental Management 21th Century)という組織を作り、前述のWEB会議も、この治療法を導入している歯科医師が、月に一度、症例報告等を行い、会員の知識の共有・レベルアップに大きな役割を果たしてこられました。

一度は抜歯を宣告された患者さんにとって、本療法と出会い、抜かずに歯を残すことが出来た喜びは大きく、口々に私に感謝の言葉をおっしゃるのですが、これは私ではなく、本療法をご指導頂いた眞坂先生への感謝に他なりません。

大きな柱を失った歯根破折歯保存治療ですが、眞坂先生のご冥福をお祈りするとともに、先生の御遺志を受け継ぎ、直弟子である私たちが本療法を継続し、割れた歯は、はじめから抜歯→インプラントと決めつけず、残せる歯は残せるような治療を(思えば当たり前の話ですが・・・)広めていかねばと思っております。

合掌

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

人間の体って凄い!

私が歯根破折歯保存治療を始めてから6年以上が経過し、症例数は500を超えました。

この間、私の技術も向上し、更にいろいろな工夫も凝らし、術式も改善して参りました。
それに伴い、助けることのできる歯も増えてきました。

治療後、抜歯を免れた患者さんはとてもお喜びになり、私の治療に対し、お褒めの言葉を頂くこともあります。しかしながら私が行っていることは他の医療行為と同様に、治癒(ちゆ)の手助けをしているに過ぎません。私が治しているのではなく、生体が自分で治っていくのです。

少し難しくなりますが、以下、説明させていただきます。

生体は体の中に非自己〔免疫学上、免疫系が自己と認識しない、生体内外の物質のこと〕
があると、それを異物として体外に出そうとします。
歯根が破折すると、その部分に感染を来します。生体はそれを非自己と認識し、肉芽(にくげ)組織で取り囲み、健全な組織から隔離します。私たちから見ると、歯根が破折すると腫れて膿が出るようになり、やがてグラグラしてくる状態です。

次に肉芽組織で取り囲まれた破折した歯根はやがて生体の外に押し出されます。それは私たちから見ると歯が抜け落ちる状態です。

歯根破折保存治療は歯根がこの肉芽組織で取り囲まれた状態で行われます。いったん抜歯して、肉芽組織を綺麗に取り去り、感染歯質を取り除き、破折部分を生体為害性のない接着剤で補修して戻してあげます。
すると生体はこれを自己と認識し、肉芽組織で取り囲むことなく、歯根膜組織および骨組織が再生し、健常な状態に戻っていくのです。

治療前のレントゲン写真で見ると歯根周りの骨がかなり失われていて、これは再植保存治療をしても助けられないかな?と思われる症例でもかなりの割合で助かるのです。
もちろんそれまでに失われた歯槽骨等はすぐには再生しませんので、完全に近い状態に戻るにはある程度の時間はかかりますが、時間の経過とともに戻っていきます。

この現象を簡単に言ってしまえば、生体は悪いものを取り除いてあげれば、自己治癒能力により、回復していくということです。人間の体って凄いなぁと、改めて驚かされます。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

microbe and red blood cells

AIに負けるな!歯科技工士 

院長の吉田です。
今、AI(人工知能)の発達により、将来、消え去るであろう職業が挙げられています。

歯科医師はその性格上、今のところ、対象外と言えましょう。ただ、修復物を作製する歯科技工士に関しては、いくつかの問題が浮上しています。

一つ目の問題は人手不足です。医療費の上昇が抑えられ、診療報酬が伸び悩むなか、歯科医師はコスト削減のために、修復物を作製する技工料を抑えようとします。そのため歯科技工士の収入も下がらざるを得ません。

また、技工料の安い中国等への依頼も考えられます。これでは国内で優秀な歯科技工士は育ちません。以前のコラムでも書かせていただきましたが、当院でお願いしている技工所でも、若手はすぐ辞めてしまうと嘆いておられます。

もうひとつはデジタル技術の導入です。
現在、歯科医師は歯を削ったあと、その形態を歯科技工士に伝えるために、「印象採得」という型どりをし、そこに石膏等の模型材を注入して口腔にを再現するのが一般的です。ところが、現在では写真を撮るだけで、そのデータを技工所に送り、CAD/CAMで作製し、完成したものが歯科医院に送付されてくるという世界になりつつあります。

もちろん、このデータから修復物を作成する過程に歯科技工士は関与しますが、ほとんどの部分を機械がこなし、あとの部分は誰でもできるようなシステムです。この過程に歯科技工士の「巧み」が入る余地はありません。現在の段階ではこのシステムには限界があり、従来の型取りが一般的です。

しかしながら将来、このシステムに完全に置き換わる可能性は高いです。そうなると熟練歯科技工士はほとんど必要なくなってしまいます。また、歯科医師の「印象採得」の技術も不要になり、どの歯科医師でも正確な「写真」が取れればOKというようになります。

本当に歯科技工士はいなくなってしまうのでしょうか。職人技は不要になるのでしょうか。世の中の物事の進みが非常に早く、私にも分かりません。しかしながら、この数年で大きく変わることは無いと思います。歯科技工士のみなさん、目標を持って頑張りましょう。
歯科技工士は私達 歯科医師にとって大切なパートナーなのですから。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

この歯と100年生きていく

リンダ・グラットン 著「ライフ・シフト」という本に記されているように、これからの若い人は人生が100年になっていくようです。

戦国時代の武将、織田信長の言葉に「人間50年」という文言があります。
本来は平均寿命のことを指しているのではありませんが、1600年代の人たちに較べ、2000年代の人は倍も生きていくことになりました。従いまして、臓器を含めた体もこれまでの2倍、使っていくことが要求されます。歯に関しても同じです。

「8020(ハチマルニマル)運動」というものをご存知でしょうか。
満80歳で20本以上の歯を残そうとするのが主目的で、運動が開始された1989年の達成率は15%程度でしたが、近年では50%に達したとされています。
現在、日本には100歳以上の方がおよそ7万人いらっしゃるようです。この方々に何本の歯が残っているかは不明ですが、「10020(ヒャクマルニマル)」の達成率はかなり低いものと思われます。歯には定年制度というものがないので、これまで以上に長く働くことが要求される歯も大変なことです。

では100歳まで長く歯を残していくにはどうしたらよいのでしょうか。

月並みなお答えになりますが、毎日の正しいセルフケアと、定期的なプロフェッショナルケアが大切です。定期的に歯科医院に通うことにより、歯周病や虫歯になってしまった場合でも、早期発見が可能ですし、ご自身の歯に対する意識の高まりが期待されます。

歯を失う理由としては ①歯周病、②虫歯、③歯根破折の順となっています。
当院では虫歯のチェックには目視に加えレーザーを使用しており、客観的な数値で患者さんに虫歯の状況をお伝えするのですが、「まだ痛くないから・・・」と、治療されない患者さんもいらっしゃいます。
ただ、痛みが出たら神経まで感染が及んでいる可能性が高く、神経を取る治療が必要になります。神経を取ることにより歯根破折を起こしやすくなり、歯の喪失への大きな前進です。

また、虫歯は一旦治療すれば、もう虫歯にならないとお考えの方もおられるのですが、それは大きな誤解です。修復物と歯の隙間から虫歯菌が侵入し、二次虫歯になる可能性は充分にあります。この二次虫歯になる時期をいかに先延ばしにするか?が、歯を長く残すためには、とても重要なのです。

二次虫歯を防ぐためには、詰め物・被せ物の精密な型採りを行い、丁寧な修復治療をしてもらうことに尽きますが、当然、時間と費用がかかります。しかしここで投資しておかないと、その先の治療には更に多くの時間と費用が要求され、それが受け容れられない場合には歯の喪失に向かってまっしぐらでで、とても100年は使えません。

如何にきちんとした治療を受け、再治療を先延ばししていくか?が長く使えるかどうかのポイントになります。

私はこの点をコンサルテーション時に患者さんに力説しているのですが、「前歯は綺麗なのがいいので白いセラミックにするが♪、奥歯は見えないから(精度の低い)銀歯で大丈夫♪」という方が多いのが現実です。これでは「奥歯は早く失っても構わない。」と仰っているのと同義です。
私の説明が不十分なのかもしれませんが、一度抜けたら二度と生えてこないご自分の歯を、どれだけ長く使う必要があるのか?という自覚が、残念ながらあまり認識されていないことを痛感します。

歯が無くなってしまえば、入れ歯やインプラントで修復可能ですが、入れ歯はその使い勝手からQOL(生活の質)が下がることが懸念されます。またインプラント治療は外科手術を伴いますので、誰でも簡単に受けられる治療ではありません。
また、受けられたとしても、高額な費用とエネルギーが要求されます。(抜歯を宣告されたが、抜歯したくないとお考えの方は、歯根破折保存ページを参考になさってください。)

皆さん、頑張ってご自分の歯を100年使いましょう。しかし、かく申す私も昨年、1本の歯を失ってしまいました。残った27本をあと40年使っていかなければ!です。

エルメスとインプラントに共通するもの

今年も残すところあと1日となりました。
診療は27日で終了しているのですが、診療が終わってやっとコラムを書く時間ができました。
大した文章ではないのですが、今年最後の私のコラムにお付き合いください。

少し前のことになりますが、私が所属するClub22 というインプラントに関する勉強会が開催する12月の特別講演の講師として齋藤峰明氏をお招きしました。

齋藤氏はエルメス本社の副社長を務められた方で、現在はシーナリーインターナショナルの代表に就任されていらっしゃいます。氏は高校卒業後、渡仏しソルボンヌ大学を卒業、三越、エルメスと勤務された経歴の持ち主です。

今回の講演では氏の高校時代から渡仏後、三越勤務時代、エルメス勤務時代の事、またエルメスの理念や他の有名ブランドとの違いについて2時間30分をかけてお話しいただきました。

エルメスは1837年にパリで馬具工房としてスタートしましたが、自動車時代の到来を予見し、カバン等の皮革製品の製作へと軸足を移して成功したとのことでした。その製品作りにかける精神はインプラント治療にも通ずるものがあり、会員一同、大変勉強になりました。

例えば、カバンの革を縫い合わせている糸が1本切れても裏側からも同様に縫ってあるため、糸がほつれてカバンの革がめくれたり、剥がれたりすることは無いのだそうです。ですから、すぐに修理しなくとも、旅行中あるいは外出中に実用上、問題が生じないわけです。

インプラント治療でも同様です。普段は問題がなく、気づくことがなくとも、そういった配慮が為されているインプラント治療であれば、何かトラブルが生じても、大きな問題を起こすことなく、長期間、対処していく事が可能です。

私も治療にあたり、「痛くない」、「早い」といった患者さんわかりやすい処置だけでなく、目立たなくとも、常日頃心がけている確実な処置がやはり大切なのだと再認識させられました。患者さんには「何でこんなに時間がかかるの?」とお叱りを受けることもありますが、(歯科職人としては)ここは譲れないところです。

年末に思いがけず、良いお話を伺うことができました。

「根管治療と歯根破折保存治療は違うのですか?」

「根管治療と歯根破折保存治療は違うのですか?」
先日、当院の患者さんから頂いた質問です。

「根管治療」(こんかんちりょう)は「歯内療法」(しないりょうほう)とも言いますが、歯の内部の神経が通っている根管というスペースを綺麗にしていく治療です。

このスペースに細菌感染が起こると歯の根の先端部分に病巣(骨が溶け膿が溜まった状態)が生じます。やがて膿は骨の中を進み、歯肉にニキビのような膿の出口が発現する場合もあります。通常、歯科医院で行われている、いわゆる根の治療がこの根管治療で、ほとんどの歯科医師が行っています。もちろんこの治療を専門に行う専門医もいます。

ただ、歯根が割れて分離したり、ヒビが入ってしまうと、この根管治療で治すことは不可能であり、治療の選択肢としては抜歯となります。

しかしながら現在では、出来るだけご自身の歯を残したい患者さんの希望に沿うよう、歯を抜かずに治す治療法が開発されてきました。これが歯根破折保存治療、あるいは歯根破折歯の治療と呼ばれているものです。この治療法を取り入れている医院は現在のところ限られておりますが、当院では6年ほど前から行っております。

この治療法には大きく分けて2種類があります。
ひとつは根管内部を拡大鏡あるいは顕微鏡で見て、ヒビの入っている部分を修復したり、あるいは歯肉を開いて骨面を露出させ、そこから歯根面のヒビを修復していく口腔内接着法です。
もうひとつの方法は歯を一度抜き、口腔外で修復し、すぐに元に戻す再植法です。どちらを行うかは口腔内の状況と術者の考え方によると思います。
当院では後者を選択する場合が多くなっています。その理由はいくつかありますが、まず、口腔外で処置を行うため、破折箇所を観察しながら、汚染部や虫歯に侵されている部分を十分に取り除くことが可能です。また、乾燥状態で処置できるため、接着が良好です。さらに、一旦、抜歯しますので、抜歯窩(歯根があった部分に相当する骨の陥没部分)に残っている悪い組織を徹底的に除去することができます。
特に破折の程度がヒビではなく、完全に分離している場合には再植法でないと対応できません。再度、歯が生着しない可能性もありますが、これまでのところほとんどありません。
ただ、一度生着したものの、その後の経過が思わしくない場合もあり、当院での成功率は概ね90%です。

最初の質問に戻りますが、歯根が破折しておらず、単に根管が感染している場合に行う治療が根管治療、歯根が破折して感染している場合に行う治療が歯根破折保存治療ということになります。

「インプラント専門医なのに歯根破折保存治療をするのですか?」

「先生はインプラント専門医なのに、どうしてすぐに抜歯してインプラント治療を勧めずに、歯根破折保存治療をなさるのですか?」
当院のホームページをご覧頂き、歯根破折保存治療を希望されてお見えになった患者さんから時々頂くご質問です。
「かかりつけの歯科医師から、歯が割れているからこれはもう抜歯してインプラントしかない!と言われて・・・」と、皆さん異口同音に、驚くほど同じことをおっしゃいます。

患者さんのなかには、出来れば残したいけれど、やはり抜歯しか方法がないなら、インプラントしかないかしら?と、(半分、歯を残すことを諦めて)、インプラント治療で検索されて、当院にお越しになる方もおられます。
確かに私はインプラント専門医ではありますが、残せる可能性がある場合、まず歯を残す治療からお勧めしています。ですので、てっきりインプラントを勧められると思ったのに、「歯を残しましょう」と私に言われて、患者さんは拍子抜けのような感じになるのかもしれません。

患者さんが疑問を持たれるのは、「インプラント専門医」という名称が一般的には、わかりにくいのかもしれません。
「インプラント専門医」というのはインプラント治療に関する十分な技術と知識を有しているという日本口腔インプラント学会から頂くお墨付きであって、ひとつの資格に過ぎず、インプラント治療だけを専門に行う医師であるという意味ではありません。
たとえて言えば、「外科医なのに、なぜ、手術ではなく、投薬で治療するの?」というようなご質問なのだと思います。外科医であっても、身体にダメージが大きい外科処置を行う前に、投薬で治療できる可能性があるなら、まずは身体に優しい投薬による治療を判断するのではないでしょうか。

私がインプラント治療の前に第一の選択肢として歯の保存をお勧めする理由、それは至ってシンプルで、私が「天然歯(ご自身の歯)に勝るものはない」と思っているからです。
確かにインプラント治療は失った歯を補うためには素晴らしい治療法で、専門医になって良かったと思っています。インプラントを応用することで患者さんの噛む機能が大きく改善されたり、隣り合った歯を削らずに済む場合も多くあります。

しかし私はインプラント専門医である前に、失われた歯を修復する補綴専門医であり、さらにそれ以前に歯を守ることを専門とする歯科医師です。口腔機能の保全に努めるプロフェッショナルとして、従前の観念では抜歯しか方法が無かった歯根破折ですが、歯を残せる可能性があるのなら、まずは歯根破折保存治療という選択肢があることを患者さんには説明させて頂いております。もちろん、以前のコラムで書いた通り、説明の結果、インプラントを選択される患者さんもいらっしゃいますが、最終的な決断は患者さんご本人にお任せしています。

インプラント治療に比較すれば、歯根破折保存植法はまだ歴史が浅く、当院でもまだ5年超の経過観察記録しかございません。ただ、この治療を受けられた患者さんには、出来るだけ長く、その歯を使って頂きたい、これが私の目指すものであり、歯科衛生士によるメンテナンスも含め、当クリニックのスタッフ全員がこの目標に向かって日々、努力してくれています。

インプラントは最後の手段と考えいただいて宜しいのではないでしょうか。

歯科医師人生における4人の師 ②

前回に引き続き私のメンターと言える4人の先生のうち、残りのお2人について紹介させて頂きます。私が歯科医院を開業してからお世話になったカリフォルニア在住のTeru Harada(てる はらだ)先生と、眞坂歯科医院の眞坂信夫(まさか のぶお)先生です。

まずHarada先生についてです。
私がまだ開業して間もないころ、カリフォルニア州パロアルトで開業されている同先生によるドーソン咬合(噛み合わせ)理論の講習会の案内が歯科雑誌に掲載されていました。咬合が極めて大切である歯科補綴(しかほてつ)学の講座に在籍していたにもかかわらず、確固たる咬合理論を身につけていないことがずっと気になっていた私は、思い切って数日間休診し、この講習会に参加しました。

日本語と英語が混じる奇妙なレクチャーでしたが、その内容に感銘を受け、その後も5回、先生の講習会に通いました。その後、Harada先生が来日してレクチャーをするようになったため、日本でのコース開催に携わるようになりました。
下の画像は2005年に当院で行われた講習会のものです。

Harada先生からご教示頂いた咬合理論は現在の私の治療の根幹となっています。
この咬合理論の習得無くしては自信を持って治療を行えなかっただろうと思うと、思い切ってパロアルトに行って良かったなとつくづく思います。Harada先生は数年前にリタイアされ、お目にかかる機会もなくなりましたが、私の好きなワインの産地ナパ・バレーにも近い先生のお宅をまた訪ねてみたいと思っています。

最後は破折歯保存治療についてご教示頂いた眞坂信夫(まさか のぶお)先生です。
東京歯科大学の大先輩ですので、以前からお名前は存じあげておりましたが、6年ほど前、大学の同窓会主催の講習会で歯根破折の治療についてお話を伺う機会を得ました。

学生時代、大学では破折した歯の治療方法は抜歯と教えられてきましたので(現在も同じだと思います)歯根破折症例に対しては、私もそれまでは教科書通りに何の迷いも無く抜歯を行って参りました。

歯根が割れた歯を残すことができるなんて、まさか(眞坂)ね・・・」と、最初は半信半疑だったのですが、先生のお話が進むにつれ、治療の理論背景がしっかりしており、長期の経過症例を見せていただいたことにより、頭の中に一筋の光が走ったような衝撃を感じました。

その後、眞坂先生が個人的に講習会を開催していることを知り、すぐに参加いたしました。以来、この治療法を自分の臨床に導入し、多くの患者さんの歯を保存することができました。

私の専門は失われた歯をインプラントブリッジ・義歯などで補うこと=補綴(ほてつ)ですが、歯を失わずに済めば、患者さんにとってはその方が遙かに望ましいことだと思います。
実は、私自身の歯にも信頼できる先生に本法で加療していただき、1本保存することができました。自分自身で受けているのでよく分かるのですが、歯を抜かずに残せたときの喜びは非常に大きいものです。受付で涙を流される患者さんもおられます。

このような治療法を開発され、ご自身の専売特許とするのではなく、後輩の歯科医に教えて下さった眞坂先生には本当に感謝しております。私より17年先輩ですが、非常にお若く、自ら講習会や勉強会を開催され、またWEB会議を取り入れるなど、新しいことにもどんどん挑戦されているお姿には感動させられます。

ここまでに紹介させていただいた4人の先生方、いずれが欠けても、歯科医師としての現在の私はありませんでした。このような先生方に出会う機会を与えて下さった神様に感謝せずにいられません。

4人の先生方から教えて頂いたことは、私もいずれ、後輩達に引き継いでいきたいと考えております。