高齢者のインプラント治療について

前回2回のコラム、「高齢者のインプラントケアについて」「高齢者にも優しいインプラントシステム」では、ブローネマルクシステムをはじめ、上部構造を外せるタイプのインプラントシステムであれば、私見ですが高齢者にも優しいインプラントシステムではないか?ということをお話させて頂きました。

ただし、これは既にインプラントが入っている方のメンテナンスを考えた場合です。
高齢になってから、新たにインプラント治療を検討するということは、また別問題になります。

なぜなら、ご高齢の方がインプラント治療を受けられる場合、いくつかのクリアすべき問題点が出てくるからです。
第一は、ブローネマルクシステムに限らず、インプラント治療は外科手術を伴う点です。
ご本人が治療を希望されても、糖尿病などの全身疾患や、女性の場合、骨粗しょう症など、服用されている薬の問題でインプラント手術ができない場合があります。

これまでに当院でインプラント手術を受けられた最高齢の方は84歳の男性でしたが、この方は幸いなことに、全身疾患の問題がありませんでした。
年齢が上がるにつれ、いわゆる生活習慣病等の疾患などで様々な薬を服用されている方が多く見られます。私も患者さんのかかりつけの内科医や整形外科医などと連携を図り、検討の結果、患者さんの安全を考え、インプラント手術を見送ったことがあります。

次にインプラント治療に取り組む患者さんの体力の問題です。
インプラントは外科処置を伴う上に通院回数も多くなりますので、ある程度の体力が必要となります。
当院で既にインプラント治療を受けられている患者さんでも、インプラント以外のご自身の歯が残念ながら抜歯となり、その治療をどうするかお考えいただく際、「インプラントは良く噛めるのですが、手術を考えると体力的に心配・・。」とおっしゃる方がおられます。

患者さんによっては、将来的にご自身の体力が衰え、手術が受けられなくなる状況も考えて、早めにインプラント治療に踏み切る方もおられます。高齢になってからのケアに問題がないことが分かっているならば、これもひとつの考え方かもしれません。

もし漠然とインプラント治療を検討されているが、踏ん切りがつかず、先送りになさっている方がおられるようでしたら、時間の経過とともに思わぬ全身疾患に罹患することにより、外科処置が困難になってしまうことも想定されます。

「こんなことだったら早く治療を受けておけばよかった・・・」と後悔されることの無いようにと考え、今回のコラムを書かせて頂いた次第です。

インプラント専門サイト更新について

既にお知らせしている通り、当院は今年、開院20周年を迎え、これを機にインプラント専門サイトを更新致しました。

更新と申しましても、トップページの画像の更新です。
これまでの画像は、私の好きな大輪の百合(カサブランカ)でした。これは現在もクリニックサイトの右側に表示されています。
そして今回のインプラント専門サイトの画像は、タンポポの綿毛(わたげ)です。

なぜ、タンポポの綿毛なのか?というと、この軽やかなタンポポの綿毛は青空のもと、風に乗ってふぅっと飛んで行って、やがて大地に根付き、新しい花を咲かせる生命の源となります。
このタンポポのように、失った歯が戻るように、第二の永久歯として新しい歯の芽を育てていきたいというイメージで選びました。

現在のインプラント専門サイトは、クリニックサイトとともに、7年ほど前に1年がかりで完成させました。診療終了後に連日、深夜まで内容を吟味し、渾身の力を振り絞り(笑)、もうこれ以上の情報は載せられないと思って作成した、非常に愛着のあるサイトです。

クリニックサイトは、歯根破折保存治療の導入などで頻繁に更新をしているのですが、インプラント専門サイトに関しては、インプラントの基本概念や私のインプラントに対する考え方も変わらないため、クリニックサイトに比べると更新頻度は少ないのですが、医学の進歩に伴い、加筆・修正を都度、行っております。

今後も更なる内容の充実を図り、少しでも皆様のお役に立てるよう、わかりやすいインプラント専門サイトに育てていきたいと思っております。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

高齢者にも優しいインプラントシステム 

前回のコラムでは、インプラントが入っていても、上部構造が取り外せるタイプのインプラントシステムであれば、状況に応じて段階的な対応が可能であるため、天然歯と比較してもケアが難しい
ことは無いというお話をさせて頂きました。

当院が採用しているブローネマルクシステムは、世界標準のインプラントシステムであり、私が30年以上前に初めて学んだインプラントシステムです。このシステムは臨床応用開始時点から永く機能することが分かっており、患者さんが高齢になられたときの対処も、その時点で既に考えられていました。

当時、ほとんどのインプラントシステムが「如何に成功率を上げられるか?」という目標に向かって躍起になっていたとき、ブローネマルクシステムは既に先を見通しており、術者可撤(かてつ)機構(=歯科医師が上部構造を容易に取り外せる構造)を取り入れていたのです。

その後、インプラントの普及に伴い、世の中に多くのインプラントシステムが出現しました。
それらのシステムが主に注力したこととは、「如何に早く、安く、綺麗にインプラント治療を行えるか?」ということで、インプラント上部構造装着後に想定されうるトラブルに対する対応や、高齢化によるメンテナンス能力の低下等に対する配慮は残念ながら後回しとなっていました。

後から振り返ってみると、そのような先を見越し、想定されうる事態にも充分配慮されたブローネマルクシステムを最初に習得できた私は歯科医師としては幸運でした。そしてその結果として当院の開業以前から30年のお付き合いのある患者さん方のインプラントが問題無く機能していることは、非常に有難いことだと思っております。

私がブローネマルクシステムに携わり始めた頃のインプラント上部構造は、下の写真に示しますように、天然歯の形態と全く異なる高床式のものでした。これは審美性には劣るものの、炎症の発生が少なく、メンテナンスの容易さも抜群でした。その後、審美性が重要視されるようになり、現在は天然歯の形態を模倣した上部構造が一般的になっています。

少し専門的になってしまいましたが、結論として、上部構造を取り外せるタイプのインプラントを入れられている方であれば、メンテナンスには今後も大きな問題はないと私は考えます。

ブローネマルクシステムや、同様のコンセプトを取り入れている上部構造が取り外せるタイプのインプラントシステムであれば、高齢者にも優しいインプラントであると私は考えますが、如何でしょうか。

高齢者のインプラントケアについて

ここ数年、日本口腔インプラント学会のシンポジウム等で、高齢者のインプラントがテーマとして取り上げられることが多くなりました。
これまでの歯科医療では、まず「よく噛めるようにする」ということが目標でありましたが、予防歯科に対する意識の高まりと、急速に進む高齢化社会においてQOL(生活の質)を考えた場合、歯のメンテナンスに焦点が当たるようになり、インプラントにおいてもそのケアに注目されるのは当然のことと思われます。

一般的に、インプラントのケアは天然歯(自分自身の歯)のそれに較べ、難しいと考えられているようですが、私はインプラントのケアが特段、難しいとは思いません。状況の良い歯茎から出ているインプラントは、上部構造の形態が清掃性を考慮して作製されているならば、天然歯より細菌に対して抵抗性が高いことは分かっています。
つまり、インプラントのケアは、天然歯と同等か、もしくはそれ以上に容易だと思うのです。
少なくとも天然歯のケアができる間はインプラントのケアも問題ないと思います。

問題は、天然歯のケアも自分でできなくなった場合です。
介護者が歯ブラシ等で清掃できるのであれば、インプラントも同様に清掃できるので、大きな問題は無いと思われますが、そうではなくなった場合、介護者の都合のため、天然歯を全て抜歯し、総義歯にした方が良いという少々乱暴な意見もあります。

確かに総義歯にすれば、口腔内のケアはずっと楽になり、細菌数も減らすことが可能です。ただ、歯が残っている場合に比較して、咀嚼機能が大分低下することは否めません。

インプラントが入っていても、ケアが難しくなれば、ネジで固定してある上部構造を外せば、口の中にはアバットメントと呼ばれる小さな突起が出ているだけになり、必要があればその突起を利用した安定の良い入れ歯を装着することが可能となります。

それすら清掃できない場合には、そのアバットメントも固定ネジを外してしまえば、骨の中にあるインプラントの上には歯肉が被さり、天然歯同様、口の中には何も存在しない状態にすることもできます。この段階で通常の総義歯を作製することが可能です。

インプラントのケアについて、こうした段階別の対処法が存在することを皆さんはご存知でしたでしょうか?
ただ、これは当院で採用しているブローネマルクシステムのように骨の中に埋め込んだインプラント体にアバットメントを介して上部構造がネジ止めされるつくりになっていて、取り外しができるシステムの場合です。
インプラント体とアバットメントが一体でできていて、その上に上部構造が接着剤で装着されているシステムではそうはいきません。

少し長くなりましたので、今回はここまでとし、次回は術者からみた高齢者に優しいインプラントシステムについて書かせて頂きたいと思います。

インプラントか歯根破折保存治療か

先日、前歯の差し歯が取れていらした当院の患者さんのお話です。この方は、数ヶ月前にも同じ箇所の差し歯が取れ、患者さんのご希望でそのまま装着したものの、また外れてお越しになりました。
取れてしまった歯の支えとなる歯根部をよくよく確認したところ、縦に割けており、そのため短期間で脱落してしまったものと思われます。歯根破折という診断になります。

従来なら残念ですが抜歯となるところです。前歯が無いままでは困りますので、抜けた歯を補う補綴(ほてつ)治療が必要となりますが、この患者さんの場合、問題となっている歯の隣に既にインプラントが入っているためブリッジ治療は適用できず、選択肢はインプラントとなります。

とは言え、インプラント治療には時間と費用がかかりますので、いきなりインプラントにするより、ご自身の歯を残せる可能性がある歯根破折保存治療という選択肢があることを患者さんにお話しました。ただ、歯根破折保存治療はまだ歴史も浅く、成功率も100%でないことをお伝えすると、患者さんは「だったら抜いてインプラントの方がいいんじゃないの?」と仰いました。

私は歯根破折保存治療がうまくいかなかった場合、それからでもインプラント治療は可能なことをお伝えし、患者さんも一旦は納得されたのですが、翌日、来院され、やはり初めから抜歯してインプラントにしたいということでした。この患者さんは既に当院でインプラント治療をお受け頂き、その長所・短所を良く理解しておられます。歯根破折保存治療については説明を聞いただけで、実際に治療を受けたことは無いため、それなら自ら経験し、具合のいいインプラントを選択しようとお考えになったのでしょう。

前置きが長くなりましたが、歯が折れた・割れた等の歯根破折の際、患者さんが治療の選択選択に迷われたら、以下、私からのアドバイスになります。

* 歯根破折保存治療
歯を残せる可能性があり、できるだけご自身の歯を残したいご希望がある場合は歯根破折保存治療をお勧めします。歯根破折保存治療の予後が良くない場合、それからでもインプラント治療を選択することは可能です。


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* インプラント(もしくはブリッジ・義歯など)
ご自身の歯を残すことに特段固執せず、できるだけ確実な治療を希望される場合は、直ちに抜歯して、インプラント治療等を選択されても良いと思います。ただ、インプラントの場合、全ての方に適用できる治療法ではないことをご理解頂き、インプラントを前提に抜歯をする際は、その点をきちんと確認しておいた方が良いと思います。ブリッジ・義歯に関しては、一番奥の歯でなければ、通常は治療可能となります。

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前述の患者さんの仰ったお言葉です。
「だってインプラントの方が丈夫で長持ちするでしょう?」
いやいや、ひょっとすると歯根破折保存治療でも10年単位で持つかもしれません。

結局は患者さんの価値観なのです。
私はただ、医学的に間違っていなければ、患者さんの価値観を尊重し、選択された治療法に対し、最高の結果を出せるよう治療を行うのみです。

ブローネマルク・システムを知らない?

ブローネマルク・システムを知らない?

先日インプラント学会認定専門医の資格取得を目指す歯科医師向けに、1年間にわたる講習会の第1回が開催され、講師の一人として講義をさせていただきました。講習会終了後、聴講者の一人である先生が私のところに質問に見えたのですが、その質問の内容が・・・

「先生、今日は有意義なお話を有難うございました。ところで先生が講義の中で話されていたブローネマルク・システムというのはすごいですね。どんなインプラントなのですか?
ノーベルバイオケアとか、3iとかなら知っているのですが。」

私は唖然としました。
インプラントの専門医を目指す歯科医師が、ブローネマルク・システムを知らない???

インプラント治療を手がけているまっとうな歯科医師であれば、この私の驚きがどれほどのものか、ご理解いただけると思います。ただ、一般の方にはわかりにくいと思いますので少し解説させて頂きますと、ブローネマルク・システムとは、スウェーデンのイエテボリ大学医学部のブローネマルク教授が世界で初めてチタンと骨との結合を発見し、その教授が開発された世界で最も普及しているインプラントシステムです。

義歯の限界―インプラントへどこで踏み切るか?

そのブローネマルク・システムを販売しているのがノーベルバイオケア社で、また、3iとは他社が取り扱っているインプラントシステムです。この先生はインプラントシステム自体と、それを扱う業者の区別さえついていないのです。

繰り返しになりますが、この講習会はインプラントの専門医の資格取得を目指す歯科医師が対象の講習会です。治療の経験がある先生も、未経験の先生もいらっしゃるので、知識・技術にばらつきがあるのは致し方ありません。ただ、前述の先生は全くのインプラント初心者ではありませんでした。ある程度の知識があり、わざわざ休日を潰して講習会に参加し、インプラント専門医を目指そうという歯科医師に、このような基本的な知識が欠如していることに私は驚愕したのです。

昨年末にお亡くなりになったブローネマルク教授ですが、いつだったか、教授の直弟子で、私の師である小宮山彌太郎先生から、ブローネマルク教授が「もうインプラントは私の手に負えなくなった」と嘆いていると伺いました。
ブローネマルク教授が純粋に歯を失って悩む患者のためと生み出した治療法が、何故か商業化の波に乗せられ、世界中で様々な(なかには問題を含む)インプラントシステムが氾濫する結果となり、インプラント産みの親にもコントロールできなくなったことを嘆いていらしたわけです。

以前のコラムでも書かせて頂きましたが、今から30年以上前、母校の東京歯科大学にブローネマルク教授をお招きし、実際に日本初のインプラント治療を目の当たりにし、このような素晴らしい治療法が日本に導入されたのだという感激、興奮はその場にいた人間しかわからないかもしれません。

いつまでもこんな昔話をしていると、時代遅れと言われてしまいそうです。ですが、インプラント治療の祖であるブローネマルク教授が生み出したインプラントシステムを知らない専門医が育成されることは嘆かわしいことです。治療技術の習得以前に、インプラントの原点をまず理解し。基本を踏まえたうえで、そこから先は、個々の歯科医師が治療技術の発展につなげてくれればと願っています。
インプラント治療のスペシャリストとして養成される歯科医師を指導するものの一人として、その使命・役割を再認識させられた、帰りの新幹線でのひとときでした。

最善か無か – DAS BESTE ODER NICHTS

最善か無か – Das Beste oder Nichts

格好をつけた言葉ですが、もちろん私が思いついたものではありません。
車好きの方ならご存知かもしれませんが、これはメルセデス・ベンツを製造するダイムラー社が、かつて掲げていた企業スローガンであります。
その意味するところは、「コストを顧みず、最高のものを創り出そう」ということです。

なぜこの言葉をお話するかというと、先日、私が所属するスタディーグループで、ある本を出版しました。内容は、私たちがこれまで小宮山彌太郎先生から指導を受けたなかで、それぞれが心に残った言葉を集めた語録集というものです。その中で、私が挙げたのが「最善か無か」という言葉でした。

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ブローネマルクシステムが日本に初めて導入された1980年代、私の母校である東京歯科大学では開業医向けに講習会を行っており、当時、アシスタントとして講習会を運営する側にいた私は、インプラント治療の結果を示す例えとして、小宮山先生がこの言葉を引用されたことに強い衝撃を受けました。

いち車メーカーの企業スローガンである「最善か無か」― 何故これがインプラント治療に通じるかというと、インプラントは、骨とインプラント体との結合を獲得して良好に機能するか、獲得できずに全く機能しないかのいずれかしかありません。まさしく「最善か無か」なのです。

インプラント治療では、入れ歯のように“自分の歯と同じにはならないが、ある程度は噛める”といった妥協・中間の結果は存在しません。
インプラント治療は、ブリッジ・入れ歯などで失った歯を修復する従来の補綴(ほてつ)治療とは全く異なる治療法であるということ、これを十分に理解したうえで、歯科医師は覚悟をもって治療に取り組むことが大切であると、小宮山先生はおしゃっておられたのです。

この本に掲載されている他の先生方のコメントを眺めているうちに、私は胸が熱くなりました。
医院の所在地や年齢も異なる先生方ですが、みなに共通する意識は、歯を失って苦労されている患者さんに心身共に以前の健康を取り戻してほしいという、歯科医師として純粋な思いでインプラント治療に取り組んでいるということです。

私も今年、インプラント治療に携わってから30年となり、おこがましい言い方ですが一般的にはベテランと呼ばれる年齢になりつつあるのかもしれません。ですが、いくら経験を重ねても、生体はそれぞれ異なり、同じ口腔を持つ患者さんはこの世に二人といらっしゃいません。
今の私の心境を表現できる言葉がうまく見つからなのですが、初心を忘れず、驕ることなく、これからもひとつひとつの手術にひたむきに取り組んで行きたいと思っています。

インプラント日本導入30周年記念

インプラント日本導入30周年記念

以前のコラムでも書かせていただきましたが、今年は世界標準インプラントであるブローネマルクシステムが、日本で初めて、私の母校である東京歯科大学に導入されて30年の節目の年となります。
これを記念しまして、導入の立役者である小宮山彌太郎先生を中心とする勉強会の主催で、先日、記念講演と記念式典が開催されました。

記念講演は「インプラントベーシックレビューセミナー」と題し、小宮山先生が1日半にわたって講演をされました。
講演の内容はそのタイトルどおり、ほとんどが基本の大切さについての解説でした。

私たちはこの30年間、多くの臨床経験を積んで参りました、その間に、新たな術式・技術・材料などが次々と現れるなか、自分の患者さんに本当に必要かつ有効と思われるものを慎重に選択し、今日に至っています。
ただ、いくらインプラントの治療技術が進歩しても生体(人間の身体)はそれほど短時間で変るものではなく、よって大切な基本の部分はこの30年を経ても変わることはないのです。
昨今のインプラント治療にまつわるトラブル多発に警鐘を鳴らすため、安易に目新しいものを追い求めるのではなく、原点に立ち戻ろうと、小宮山先生はこの点を強調されたのです。

1日目の晩の記念式典の際、スウェーデンのブローネマルク先生のご自宅と回線が接続され、先生から30周年の祝辞を頂きました。

小宮山先生から私にマイクが渡され、思いがけず先生ご本人とお話しする機会を得ました。思えば私が最後にブローネマルク先生とお話したのは、ベルギーに留学する前年の1993年、学会でスウェーデンのイエテボリを訪れた際ですので、今からちょうど20年前になります。

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写真は30年程前、ブローネマルク先生が日本を訪れた際の写真です。
中央が先生、左が若かりし頃の無邪気(?)な私です。国を越え、時間を越えて長く尊敬できる師に出会えた私は幸せ者だと思います。ブローネマルク先生がチタンと骨との結合を発見し、そこに小宮山先生が留学し、日本に戻られた年に、その講座に私が入局したという偶然の積み重ねがありました。
人にはみな運命というものがあると思いますが、私は歯科医師としての自分の運命に感謝しています。

オリンピックの招致活動で「レガシー」(legacy=遺産、受け継がれたもの)という言葉が東京のキーワードになっていました。
これを自分に置き換えてみると、インプラント治療における「レガシー」=「基本に忠実にそして何より患者さんが長く使えるインプラント治療を目指す」というブローネマルク先生、小宮山先生両先生の教えを大切に守りつつ、その上で安心確実な新しい知識・技術を加えていくことが、これからの私の使命だと考えています。

自分の家族にインプラント治療を行いますか?

自分の家族にインプラント治療を行いますか?

もう随分と前の話ですが、今ほどインプラント治療が普及していなかった頃、インプラントに否定的な考えを持つ歯科医師から、 ”患者が自分の家族だったら、その歯科医師はインプラント治療を行わないだろう。“ というような主旨の書籍が新聞広告に載っていました。
その頃、私はすでに私の母に上下、合計20本のインプラント治療を行っておりましたので、その書籍広告を見て、 ”私はするよ、いや、もうしたよ。“ と思っていたものです。

インプラントに否定的な歯科医師は、 “インプラントのようなリスクが高い治療を自分の家族には出来るわけがない”、 と考えておられたのでしょう。私の考えは、必要な検査を行い、その検査結果に問題が無く、安全に手術を行える条件が整えば、(家族であろうとなかろうと)、患者さんが望めば治療を行います。
あくまでも “条件が整えば” です。患者さんが希望されても、無理な手術は行いません。お手頃価格のインプラントの登場で、インプラントが身近に感じられるようになりましたが、実際のインプラントの手術は、患者さんがお考えになるほど容易ではないからです。

最近、インプラント治療を希望されて来院される患者さんが、以前にも増して医院選びに慎重になられているように思います。何でも噛めるようになり、生活の質を向上させる治療ですが、現実に多くの健康被害報告が寄せられており、患者さんが慎重になられるのは当然です。
むしろ、安易にインプラント治療を受けて、トラブルに巻き込まれて後悔するより良い傾向だと考えています。いや、冷静に考えてみれば、歯科に限らず、外科治療に受けるのに病院選びに慎重になるのは至極、当たり前ではありませんか。

当院ではホームページ以外には広告などをしておりませんので、インプラント治療に関して、世間への露出度 (笑) はあまり高くないと思います。ですので、インプラントを希望される初診の患者さんには当院を知ったきっかけを伺うのですが、日本口腔インプラント学会の専門医・指導医のリストから検索された方が複数いらしたことには驚かされました。その頃は、学会の名簿には所属する都道府県と氏名しか記載されていませんので、その先生のポジション、例えば歯科大学の教授なのか、勤務医なのか、開業医なのか、わからないのです。そのなかから当院を探してくださったのには、かなりのお時間を費やされたのではないかと思います。

レントゲン写真

写真は私の母のレントゲン写真です。上は全てインプラント、下は奥歯のみで、上下ともに装着10年を越え、今では年に2回の定期検診だけです。

今年は近代インプラント治療の祖であるブローネマルク教授がインプラント治療を開始されてから50周年になります。また、1983年にブローネマルク教授が初めて来日されて、母校の東京歯科大学で執刀されてから30年になります。その当時は現在のようにトラブルが多くなるなど考えもしませんでした。このままでは私たちがこれまで築き上げてきたインプラントという優れた治療方法に対する評価が崩れかねません。

何とか原点に立ち戻り、インプラント指導医として後進の指導に努め、確実な治療成績を残していきたいと考えています。

そのインプラント、永く使えますか?

そのインプラント、永く使えますか?
インプラント上部構造(人工歯)のセメント固定のデメリットについて

インプラント治療が普及するにつれ、様々な問題点が取り沙汰されるようになりました。
当院でも、他院で治療されたインプラントの不具合のご相談で来院される方が増加傾向にあります。

直近の例では、2本連結のうちの1本のインプラント部からの出血のご相談でした。
レントゲン像から判断すると、出血しているインプラント1本が骨との結合を失い、つながっているもう
1本のインプラントに支えられ、ようやく抜けずにお口のなかに収まっている状況です。

そのインプラント、永く使えますか?骨と結合しているかどうかの最終的な判断は、上部構造(人工歯の部分)をはずしてみれば容易につくのですが、この患者さんの場合、上部構造が歯科用セメントでインプラント体に固定されており、上部構造のみをはずすことができません。はずす=上部構造を壊すことになるのです。

インプラントの上部構造の固定方法には、基本である「ネジ固定」と、その後普及した「セメント固定」があります。どちらの方法にもメリット・デメリットがあるのですが、当院では、原則としてネジ固定を行っています。

ネジ固定の主なメリットとしては

  • ネジをはずせば容易に上部構造をはずすことができ、メンテナンスが容易である
  • 長期間の使用のうち、上部構造が欠けた場合でも上部構造だけをはずして修理できる
  • 口腔内の状況が変ってもインプラント体を損なわず上部構造のみを新たに作製・改造できる

メンテナンスおよび修理が容易なことにより、結果としてインプラントを永く使用でき、患者さんにとって、より多くのメリットがあると考えています。ちなみに当院では上部構造の修理中、保存してある仮歯を装着できるため、歯が無い状態で過ごす期間はありません。

ネジ固定のデメリットとしては、

  • ネジ穴があるため、審美性が損なわれる場合がある

当院でも前歯部のインプラントの場合のみ、審美性の観点からセメント固定にする場合があります。
患者さんにデメリットをご説明してから行いますが、多少、見た目が劣っても、永く使えることを優先したいと、ネジ固定を希望される方もいらっしゃいます。

患者さんにとっては多くのメリットがあるネジ固定ですが、治療を行う側にとっては良いことばかりではなく、

  • 精密な上部構造が必要なため、歯科医師および歯科技工士に高い精度の技術が要求される
  • 歯科技工料、材料代が高くなる
  • 治療回数が増えるため、一人の患者さんにかかる歯科医師の作業量が増える

といったデメリットが生じます。

言い換えれば、セメント固定を採用すれば、比較的経験が少ない歯科医師でも治療が容易で、更にコストも低くすることができます。よって価格を抑えたインプラント治療ではセメント固定が多く用いられているのが現状です。

もし上部構造が壊れる可能性が絶対に無いのなら、セメント固定は患者さん、歯科医師双方にとって良い方法でしょう。ふと思ったのですが、これは東京電力の原発事故に共通するものがあるかもしれません。何事も起こらなければ原子力発電は非常に良いが、ひとたび事故が起こると取り返しがつかない事態になる。

長期間の使用で起こり得る様々な可能性を考慮しながら、安心して使えるインプラント治療を目指す私にとって、「上部構造のネジ固定」は治療の基本であり、患者さんを守るための約束であると考えています。インプラント専門医としての矜持でしょうか。(笑)