「この歯、サイコー!」

私が書いたブログの履歴を見ていたら、最近、歯根破折の話題にかなり偏っているなと思いました。
お問い合わせも多く、私自身が経験しているため思い入れが強すぎるのかもしれませんが、院長先生はもともとインプラント専門医ですので、従来通り、インプラントの患者さんもお越し頂いております。

最近定期検診にいらしたインプラント患者さんなのですが、数年前に地方に居を移し、東京には新幹線で出張でお出でになるだけなのですが、お時間を見つけて定期的に検診にいらっしゃいます。
もともと遠方からの患者さんの通院の便を考えて院長先生は京橋に開業されたそうですが、やっぱり東京駅から徒歩圏というのは嬉しいですよね。(私達スタッフも、銀座も日本橋も丸の内も近くて、仕事帰りにエンジョイさせて頂いております。)

さてさて、この患者さん、帰りがけに
「この歯はサイコ―だよね。家を買うより良かったよ」
とおっしゃって下さったので、なんだかとても嬉しくなりました。

お陰様で私はまだインプラントのお世話になっていないため、患者さんのお言葉は実感できないのですが、ですが実際にインプラントを入れていらっしゃる患者さんがそうおっしゃるのですから、きっとそうなのでしょうね。

将来的にこの患者さんが当院までの通院が難しくなっても、その場合は世界標準のブローネマルクシステムのインプラントですから、当院からインプラントのデータをお渡しすれば、お近くの歯科医院さんに転院することも可能だと思います。現在、いろいろなインプラントシステムがあるようですが、ブローネマルクシステムでしたら、どこに行っても(海外移住でも)安心だと思います。

人生100年時代に突入した今、これからインプラント治療を検討される皆様は、その後のメンテナンスも考慮に入れてインプラントをお選びになったほうが良いかもしれませんね。

吉田デンタルクリニック
受付 菊地

歯科医師人生における4人の師 ①

歯科医師となって35年の月日が流れました。
この間、多くの方から様々なことをご教示頂きましたが、その中でも特にメンターと言える4人の先生がいらっしゃいます。今回はこれらの先生方とのつながりについてお話ししてみたいと思います。

まずは東京歯科大学を卒業し、歯科医師人生を踏み出した24歳の時、大学院生として入局した歯科補綴(ほてつ)学第三講座主任教授、関根弘(せきねひろむ)先生です。

当時、新人の大学院生には「教授当番」という仕事があり、同期の新人5人と交代で一日中、教授のお世話をする日がありました。
まず教授が出勤されるとコーヒーを煎れ、教授室に予定表を持って行き、1日の予定を確認します。
教授が出かけられる際には自分の車で駅まで送迎します。
昼食時には学生食堂で列に並んで食事を教授のテーブルまで運びます。
学生の授業では、板書が済んだ部分を、タイミングを見計らいながら黒板消しで綺麗にしていきます。
夜も教授の予定が空いているときは、夕食をご一緒させていただきました。

今思うと、昔の書生のようなもので、小説「白い巨塔」に出てくるような生活でした。
もちろん緊張感はありましたが、カリスマの塊のような先生から直接、研究者、教育者としての基本を教えて頂くことができ「教授当番」は、私には全く苦にはなりませんでした。

私の父が関根先生と大学の同級生で仲が良かったこともあり、可愛がっていただきましたが、20年前に急逝されました。東京歯科大学学長や日本歯科医学会会長までされており、日本の歯科界にとっても大きな損失だったと思います。
私が尊敬する4人の先生方のなかで、ただ1人、故人となってしまいましたが、結婚祝いに頂戴した優雅な置時計が、自宅の机の上で25年以上、私をゆっくり見守ってくれています。

2番目は同じく東京歯科大学で講座の大先輩で、インプラント治療に対する歯科医師の心構えと技術を教えて頂いた小宮山彌太郎(こみやまやたろう)先生です。

小宮山先生は私が大学院に入学した年、丁度、スウェーデン留学から戻られました。自分では勝手に運命的な出会いだったと思っています。
私には同講座で初めてインプラント関連の研究テーマが与えられ、小宮山先生が論文指導者となられました。勉強や学会発表のための海外出張も多く、朝から晩まで一緒に過ごさせて頂き、学会発表の手順や他の研究者との付き合い方など、多くを学ばせて頂きました。また、私の長期にわたるスェーデン出張の際には、小宮山先生のご家族と同じ屋根の下で過ごさせて頂きました。

大学でご一緒させて頂いた間、私は先生の背中を見ながら育ったと言っても過言ではありません。
小宮山先生を通じ、近代インプラント治療の祖であるブローネマルク教授に孫弟子として師事することができ、そのご縁でベルギーのリューベン大学に留学する機会を得ました。
現在はどちらも都内で開業している身ですが、何かにつけ相談にのってくださる有難い師です。

昔話のようで恐縮です。
長くなりましたので、残りのお二方については次回のコラムで紹介させていただきたいと存じます。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

インプラントと歯根破折の勉強会

院長の吉田です。
先日、土曜、日曜と2日続けて2つの勉強会に出席する機会がありました。

土曜日はインプラントに関するもので、私が所属するClub22の例会でした。
ちなみにClub22 のネーミングですが、インプラントは純チタンからできており、その原子番号が22のためそこから命名されたものです。この会は私の師であり、日本におけるインプラント治療の第一人者である小宮山彌太郎先生を顧問と仰ぎ、インプラント治療に真摯に取り組む歯科医師の勉強会です。

そして日曜日は私の破折歯保存治療の師である眞坂信夫先生を中心とするPDM21(Professional Dental Management 21th Century)が開催した破折歯保存治療に関するシンポジウムでした。
この方法を開発した眞坂先生とその指導を受けた弟子たちを中心としたシンポジウムで、ビデオ会議システムを使い、地方の先生方もビデオで参加されておられました。

インプラントと歯根破折保存治療、どちらも私が注力する分野であり、肉体的にはハードな週末でしたが、それぞれ充実した内容で、非常に有意義なものでした。

私の臨床のスタンスは、抜いた方が良いと思われる歯(埋伏している親不知など)以外は残していこうというものです。破折した歯であっても、患者さんが残すことを希望されているならば、可能性がゼロで無い限り、何とか抜歯せずにすむよう務めています。

先日、他院で歯の破折を指摘され、ご本人は保存治療を希望されていらした患者さんのお話です。診察の結果、保存可能であると判断したため、いきなりインプラントではなく、まずは自分の歯を保存することをお勧めし、患者さんも納得されてコンサルテーション室を出て行かれました。
ですが、受付によれば、私がインプラントの指導医・専門医であることから、他院の先生と同じように抜歯してインプラントを勧められるのだろうと覚悟していたのに、まずは抜かずに保存しましょうと提案を受けたことに驚いていらしたとのことでした。

もちろん、既に歯を失くしてインプラント治療を検討されて来院される患者さんや、破折歯保存治療の結果が思わしくない場合の治療の選択肢の一つとして、インプラントによる修復を患者さんには提案することもあります。
ただ、今のところ、破折治療の経過が良いため、まだ当院では破折治療からインプラント治療に移行された方がいらっしゃいません。

昨年、破折治療の成功率について、このコラムで書かせて頂き、それから1年以上経過していますので、アップデートをしなくてはならないのですが、日々の忙しさにかまけて、先送りになっています。年明けにはきちんと数字をまとめ、お知らせしたいと思っています。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

インプラント患者さんのクリーニングについて

今年も残り少なくなりました。
今年の最後は、インプラントが入っている方の歯磨剤についてお話ししたいと思います。

当院では通常のクリーニングでは、歯質の強化をはかるためにクリーニング後にフッ素のペーストを歯面に塗布していますが、インプラントが入っている患者さんにはフッ素ではなくミネラルのペーストを塗布しています。
それはインプラントの素材であるチタンがフッ素で侵される危険性があるからです。

以前のコラムでフッ素についてお話ししました。
フッ素は、虫歯予防・歯質強化のために、市販の歯磨剤や洗口剤に高頻度に含まれています。そのフッ素濃度は、おおよそ1000から1500ppm程度ですが、歯科医院で行うフッ素塗布では9000ppm程度の高濃度フッ素が使用されています。

チタンでできているインプラントの表面にプラーク(歯垢)が付着し、このプラークによる酸性環境下で高濃度のフッ素を使用すると、チタン表面が腐食して粗造になります。
インプラント表面が粗造になると、さらなるプラークの停滞を招き、インプラント周囲炎になることが危惧されます。(インプラント周囲炎とはインプラントの歯周病のことです。)

当院ではクリーニング後にフッ素塗布を行っていますから、もちろんプラークが残っている状態でフッ素塗布を行うことはありませんが、このような問題を生じさせる万が一の危険性を避けるため為、フッ素ではなく、ミネラルのペーストを塗布させていただいているのです。

ただ、皆さんが普段お使いになる、歯磨剤等、フッ素濃度が1500ppm以下のものであれば全く問題はありません。
当院で扱っている歯磨剤や、洗口剤もフッ素の濃度が1500ppm以下ですので、安心して使っていただけます。

ちょっと専門的になってしまい、わかりにくいかもしれません。
詳しくは歯科衛生士までお声がけくださいね。

高齢者のインプラント治療について

前回2回のコラム、「高齢者のインプラントケアについて」「高齢者にも優しいインプラントシステム」では、ブローネマルクシステムをはじめ、上部構造を外せるタイプのインプラントシステムであれば、私見ですが高齢者にも優しいインプラントシステムではないか?ということをお話させて頂きました。

ただし、これは既にインプラントが入っている方のメンテナンスを考えた場合です。
高齢になってから、新たにインプラント治療を検討するということは、また別問題になります。

なぜなら、ご高齢の方がインプラント治療を受けられる場合、いくつかのクリアすべき問題点が出てくるからです。
第一は、ブローネマルクシステムに限らず、インプラント治療は外科手術を伴う点です。
ご本人が治療を希望されても、糖尿病などの全身疾患や、女性の場合、骨粗しょう症など、服用されている薬の問題でインプラント手術ができない場合があります。

これまでに当院でインプラント手術を受けられた最高齢の方は84歳の男性でしたが、この方は幸いなことに、全身疾患の問題がありませんでした。
年齢が上がるにつれ、いわゆる生活習慣病等の疾患などで様々な薬を服用されている方が多く見られます。私も患者さんのかかりつけの内科医や整形外科医などと連携を図り、検討の結果、患者さんの安全を考え、インプラント手術を見送ったことがあります。

次にインプラント治療に取り組む患者さんの体力の問題です。
インプラントは外科処置を伴う上に通院回数も多くなりますので、ある程度の体力が必要となります。
当院で既にインプラント治療を受けられている患者さんでも、インプラント以外のご自身の歯が残念ながら抜歯となり、その治療をどうするかお考えいただく際、「インプラントは良く噛めるのですが、手術を考えると体力的に心配・・。」とおっしゃる方がおられます。

患者さんによっては、将来的にご自身の体力が衰え、手術が受けられなくなる状況も考えて、早めにインプラント治療に踏み切る方もおられます。高齢になってからのケアに問題がないことが分かっているならば、これもひとつの考え方かもしれません。

もし漠然とインプラント治療を検討されているが、踏ん切りがつかず、先送りになさっている方がおられるようでしたら、時間の経過とともに思わぬ全身疾患に罹患することにより、外科処置が困難になってしまうことも想定されます。

「こんなことだったら早く治療を受けておけばよかった・・・」と後悔されることの無いようにと考え、今回のコラムを書かせて頂いた次第です。

インプラント専門サイト更新について

既にお知らせしている通り、当院は今年、開院20周年を迎え、これを機にインプラント専門サイトを更新致しました。

更新と申しましても、トップページの画像の更新です。
これまでの画像は、私の好きな大輪の百合(カサブランカ)でした。これは現在もクリニックサイトの右側に表示されています。
そして今回のインプラント専門サイトの画像は、タンポポの綿毛(わたげ)です。

なぜ、タンポポの綿毛なのか?というと、この軽やかなタンポポの綿毛は青空のもと、風に乗ってふぅっと飛んで行って、やがて大地に根付き、新しい花を咲かせる生命の源となります。
このタンポポのように、失った歯が戻るように、第二の永久歯として新しい歯の芽を育てていきたいというイメージで選びました。

現在のインプラント専門サイトは、クリニックサイトとともに、7年ほど前に1年がかりで完成させました。診療終了後に連日、深夜まで内容を吟味し、渾身の力を振り絞り(笑)、もうこれ以上の情報は載せられないと思って作成した、非常に愛着のあるサイトです。

クリニックサイトは、歯根破折保存治療の導入などで頻繁に更新をしているのですが、インプラント専門サイトに関しては、インプラントの基本概念や私のインプラントに対する考え方も変わらないため、クリニックサイトに比べると更新頻度は少ないのですが、医学の進歩に伴い、加筆・修正を都度、行っております。

今後も更なる内容の充実を図り、少しでも皆様のお役に立てるよう、わかりやすいインプラント専門サイトに育てていきたいと思っております。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

高齢者にも優しいインプラントシステム 

前回のコラムでは、インプラントが入っていても、上部構造が取り外せるタイプのインプラントシステムであれば、状況に応じて段階的な対応が可能であるため、天然歯と比較してもケアが難しい
ことは無いというお話をさせて頂きました。

当院が採用しているブローネマルクシステムは、世界標準のインプラントシステムであり、私が30年以上前に初めて学んだインプラントシステムです。このシステムは臨床応用開始時点から永く機能することが分かっており、患者さんが高齢になられたときの対処も、その時点で既に考えられていました。

当時、ほとんどのインプラントシステムが「如何に成功率を上げられるか?」という目標に向かって躍起になっていたとき、ブローネマルクシステムは既に先を見通しており、術者可撤(かてつ)機構(=歯科医師が上部構造を容易に取り外せる構造)を取り入れていたのです。

その後、インプラントの普及に伴い、世の中に多くのインプラントシステムが出現しました。
それらのシステムが主に注力したこととは、「如何に早く、安く、綺麗にインプラント治療を行えるか?」ということで、インプラント上部構造装着後に想定されうるトラブルに対する対応や、高齢化によるメンテナンス能力の低下等に対する配慮は残念ながら後回しとなっていました。

後から振り返ってみると、そのような先を見越し、想定されうる事態にも充分配慮されたブローネマルクシステムを最初に習得できた私は歯科医師としては幸運でした。そしてその結果として当院の開業以前から30年のお付き合いのある患者さん方のインプラントが問題無く機能していることは、非常に有難いことだと思っております。

私がブローネマルクシステムに携わり始めた頃のインプラント上部構造は、下の写真に示しますように、天然歯の形態と全く異なる高床式のものでした。これは審美性には劣るものの、炎症の発生が少なく、メンテナンスの容易さも抜群でした。その後、審美性が重要視されるようになり、現在は天然歯の形態を模倣した上部構造が一般的になっています。

少し専門的になってしまいましたが、結論として、上部構造を取り外せるタイプのインプラントを入れられている方であれば、メンテナンスには今後も大きな問題はないと私は考えます。

ブローネマルクシステムや、同様のコンセプトを取り入れている上部構造が取り外せるタイプのインプラントシステムであれば、高齢者にも優しいインプラントであると私は考えますが、如何でしょうか。

高齢者のインプラントケアについて

ここ数年、日本口腔インプラント学会のシンポジウム等で、高齢者のインプラントがテーマとして取り上げられることが多くなりました。
これまでの歯科医療では、まず「よく噛めるようにする」ということが目標でありましたが、予防歯科に対する意識の高まりと、急速に進む高齢化社会においてQOL(生活の質)を考えた場合、歯のメンテナンスに焦点が当たるようになり、インプラントにおいてもそのケアに注目されるのは当然のことと思われます。

一般的に、インプラントのケアは天然歯(自分自身の歯)のそれに較べ、難しいと考えられているようですが、私はインプラントのケアが特段、難しいとは思いません。状況の良い歯茎から出ているインプラントは、上部構造の形態が清掃性を考慮して作製されているならば、天然歯より細菌に対して抵抗性が高いことは分かっています。
つまり、インプラントのケアは、天然歯と同等か、もしくはそれ以上に容易だと思うのです。
少なくとも天然歯のケアができる間はインプラントのケアも問題ないと思います。

問題は、天然歯のケアも自分でできなくなった場合です。
介護者が歯ブラシ等で清掃できるのであれば、インプラントも同様に清掃できるので、大きな問題は無いと思われますが、そうではなくなった場合、介護者の都合のため、天然歯を全て抜歯し、総義歯にした方が良いという少々乱暴な意見もあります。

確かに総義歯にすれば、口腔内のケアはずっと楽になり、細菌数も減らすことが可能です。ただ、歯が残っている場合に比較して、咀嚼機能が大分低下することは否めません。

インプラントが入っていても、ケアが難しくなれば、ネジで固定してある上部構造を外せば、口の中にはアバットメントと呼ばれる小さな突起が出ているだけになり、必要があればその突起を利用した安定の良い入れ歯を装着することが可能となります。

それすら清掃できない場合には、そのアバットメントも固定ネジを外してしまえば、骨の中にあるインプラントの上には歯肉が被さり、天然歯同様、口の中には何も存在しない状態にすることもできます。この段階で通常の総義歯を作製することが可能です。

インプラントのケアについて、こうした段階別の対処法が存在することを皆さんはご存知でしたでしょうか?
ただ、これは当院で採用しているブローネマルクシステムのように骨の中に埋め込んだインプラント体にアバットメントを介して上部構造がネジ止めされるつくりになっていて、取り外しができるシステムの場合です。
インプラント体とアバットメントが一体でできていて、その上に上部構造が接着剤で装着されているシステムではそうはいきません。

少し長くなりましたので、今回はここまでとし、次回は術者からみた高齢者に優しいインプラントシステムについて書かせて頂きたいと思います。

インプラントか歯根破折保存治療か

先日、前歯の差し歯が取れていらした当院の患者さんのお話です。この方は、数ヶ月前にも同じ箇所の差し歯が取れ、患者さんのご希望でそのまま装着したものの、また外れてお越しになりました。
取れてしまった歯の支えとなる歯根部をよくよく確認したところ、縦に割けており、そのため短期間で脱落してしまったものと思われます。歯根破折という診断になります。

従来なら残念ですが抜歯となるところです。前歯が無いままでは困りますので、抜けた歯を補う補綴(ほてつ)治療が必要となりますが、この患者さんの場合、問題となっている歯の隣に既にインプラントが入っているためブリッジ治療は適用できず、選択肢はインプラントとなります。

とは言え、インプラント治療には時間と費用がかかりますので、いきなりインプラントにするより、ご自身の歯を残せる可能性がある歯根破折保存治療という選択肢があることを患者さんにお話しました。ただ、歯根破折保存治療はまだ歴史も浅く、成功率も100%でないことをお伝えすると、患者さんは「だったら抜いてインプラントの方がいいんじゃないの?」と仰いました。

私は歯根破折保存治療がうまくいかなかった場合、それからでもインプラント治療は可能なことをお伝えし、患者さんも一旦は納得されたのですが、翌日、来院され、やはり初めから抜歯してインプラントにしたいということでした。この患者さんは既に当院でインプラント治療をお受け頂き、その長所・短所を良く理解しておられます。歯根破折保存治療については説明を聞いただけで、実際に治療を受けたことは無いため、それなら自ら経験し、具合のいいインプラントを選択しようとお考えになったのでしょう。

前置きが長くなりましたが、歯が折れた・割れた等の歯根破折の際、患者さんが治療の選択選択に迷われたら、以下、私からのアドバイスになります。

* 歯根破折保存治療
歯を残せる可能性があり、できるだけご自身の歯を残したいご希望がある場合は歯根破折保存治療をお勧めします。歯根破折保存治療の予後が良くない場合、それからでもインプラント治療を選択することは可能です。


a_b

* インプラント(もしくはブリッジ・義歯など)
ご自身の歯を残すことに特段固執せず、できるだけ確実な治療を希望される場合は、直ちに抜歯して、インプラント治療等を選択されても良いと思います。ただ、インプラントの場合、全ての方に適用できる治療法ではないことをご理解頂き、インプラントを前提に抜歯をする際は、その点をきちんと確認しておいた方が良いと思います。ブリッジ・義歯に関しては、一番奥の歯でなければ、通常は治療可能となります。

001

前述の患者さんの仰ったお言葉です。
「だってインプラントの方が丈夫で長持ちするでしょう?」
いやいや、ひょっとすると歯根破折保存治療でも10年単位で持つかもしれません。

結局は患者さんの価値観なのです。
私はただ、医学的に間違っていなければ、患者さんの価値観を尊重し、選択された治療法に対し、最高の結果を出せるよう治療を行うのみです。

ブローネマルク・システムを知らない?

ブローネマルク・システムを知らない?

先日インプラント学会認定専門医の資格取得を目指す歯科医師向けに、1年間にわたる講習会の第1回が開催され、講師の一人として講義をさせていただきました。講習会終了後、聴講者の一人である先生が私のところに質問に見えたのですが、その質問の内容が・・・

「先生、今日は有意義なお話を有難うございました。ところで先生が講義の中で話されていたブローネマルク・システムというのはすごいですね。どんなインプラントなのですか?
ノーベルバイオケアとか、3iとかなら知っているのですが。」

私は唖然としました。
インプラントの専門医を目指す歯科医師が、ブローネマルク・システムを知らない???

インプラント治療を手がけているまっとうな歯科医師であれば、この私の驚きがどれほどのものか、ご理解いただけると思います。ただ、一般の方にはわかりにくいと思いますので少し解説させて頂きますと、ブローネマルク・システムとは、スウェーデンのイエテボリ大学医学部のブローネマルク教授が世界で初めてチタンと骨との結合を発見し、その教授が開発された世界で最も普及しているインプラントシステムです。

義歯の限界―インプラントへどこで踏み切るか?

そのブローネマルク・システムを販売しているのがノーベルバイオケア社で、また、3iとは他社が取り扱っているインプラントシステムです。この先生はインプラントシステム自体と、それを扱う業者の区別さえついていないのです。

繰り返しになりますが、この講習会はインプラントの専門医の資格取得を目指す歯科医師が対象の講習会です。治療の経験がある先生も、未経験の先生もいらっしゃるので、知識・技術にばらつきがあるのは致し方ありません。ただ、前述の先生は全くのインプラント初心者ではありませんでした。ある程度の知識があり、わざわざ休日を潰して講習会に参加し、インプラント専門医を目指そうという歯科医師に、このような基本的な知識が欠如していることに私は驚愕したのです。

昨年末にお亡くなりになったブローネマルク教授ですが、いつだったか、教授の直弟子で、私の師である小宮山彌太郎先生から、ブローネマルク教授が「もうインプラントは私の手に負えなくなった」と嘆いていると伺いました。
ブローネマルク教授が純粋に歯を失って悩む患者のためと生み出した治療法が、何故か商業化の波に乗せられ、世界中で様々な(なかには問題を含む)インプラントシステムが氾濫する結果となり、インプラント産みの親にもコントロールできなくなったことを嘆いていらしたわけです。

以前のコラムでも書かせて頂きましたが、今から30年以上前、母校の東京歯科大学にブローネマルク教授をお招きし、実際に日本初のインプラント治療を目の当たりにし、このような素晴らしい治療法が日本に導入されたのだという感激、興奮はその場にいた人間しかわからないかもしれません。

いつまでもこんな昔話をしていると、時代遅れと言われてしまいそうです。ですが、インプラント治療の祖であるブローネマルク教授が生み出したインプラントシステムを知らない専門医が育成されることは嘆かわしいことです。治療技術の習得以前に、インプラントの原点をまず理解し。基本を踏まえたうえで、そこから先は、個々の歯科医師が治療技術の発展につなげてくれればと願っています。
インプラント治療のスペシャリストとして養成される歯科医師を指導するものの一人として、その使命・役割を再認識させられた、帰りの新幹線でのひとときでした。