危険な「ブラキシズム」をご存じですか?

危険な「ブラキシズム」をご存じですか?

ここ数年、歯の根が折れた・割れたという主訴で、歯根破折保存治療噛み合わせ(咬合)治療を希望される患者さんが増加傾向にあります。
今回はそれらと深い関わりを持つ、ブラキシズムについてのコラムです。

「ブラキシズム」とはなじみのない言葉だと思いますが、「歯ぎしり」でしたらご存知でしょう。
この歯ぎしり・噛みしめ・食いしばりを総称して「ブラキシズム」といいます。
そして、このブラキシズムは、皆さんの想像以上に歯には大きなダメージを与えてしまいます。

一般的に人が歯を失う原因は、外傷を除けば細菌感染と噛み合わせの力の問題によるものです。
1位の虫歯や歯周病は、主たる原因が細菌感染で、2位の歯牙・歯根の破折は、噛む力の問題によります。

もちろんブラキシズムが無くても歯が割れる可能性があります、ただ、ブラキシズムのある方の場合、歯牙・歯根の破折の可能性は非常に高くなります。また、ブラキシズムによる悪影響は歯牙・歯根破折のみならず、顎関節症、歯の摩耗、知覚過敏など、様々な症状を引き起こします。また歯周病にブラキシズムが加わると、急激に歯周病が進むともいう報告もあります。

ただ、やっかいなことに、ブラキシズムはなかなかご自身では認識しづらいものです。
就寝中の歯ぎしりは音が出ますのでご家族に指摘されて発見される場合もあるのですが、噛みしめは音が出ないので、他覚的には分かりにくいものです。私たち歯科医師や歯科衛生士がお口の中を拝見し、すり減った歯の状況から判明することが殆どです。

このブラキシズムの原因なのですが、残念ながらまだはっきりとは解明されておりません。
全身的な因子としては先天的なもの、ストレスなどがあげられます。また、局所的因子(口腔内の問題)としては噛み合わせの問題が挙げられています。

原因が明確でないため、治療法にも明確な指針がないのですが、全身的な因子によるものは、歯科医院では治療困難であり、対症療法としてナイトガードの使用があげられます。

ナイトガードとは、夜間、就寝中にマウスピースを装着して頂き、歯ぎしりや噛みしめがあっても、マウスピースがクッションとなり、個々の歯へのダメージを軽減しようというものです。
当院では3種類の素材のナイトガードを扱っております。薄い素材のほうが違和感は少ないのですが、その分、耐久性に劣ります。厚ければ耐久性には優れますが、その分、装着時の異物感が強くなります。

ブラキシズム

また、ブラキシズムが原因での歯根破折を起こした場合、せっかく治療が成功しても、ブラキシズムにより再度その歯、もしくは他の歯の破折を起こす可能性があります。そのような場合、予防処置としてナイトガードの装着をお勧めしています。噛み合わせの問題については歯科界でも統一見解がないのですが、当院では咬合調整を推奨しています。

虫歯が減りつつある現在、次に注目される口腔の問題がこの「ブラキシズム」なのです。
ただこのストレス社会ですから、なかなか根絶は難しいかもしれませんね。
頬杖をつかない、電話を首に挟んで話さないなど、ちょっとした習慣を改めることで、ブラキシズムを起こさずに済むかもしれません。当院では、このブラキシズムについてわかりやすく説明した書籍を待合室に置いております。是非一度ご覧いただき、ご自身にブラキシズムが無いか、セルフチェックをなさってみてはいかがでしょうか。

あまり噛みしめると・・・

あまり噛みしめると・・・

サッカーワールドカップ、真っ最中です。寝不足の方も多いのではないでしょうか。
私も気が付くと手に汗を握り、見ると手のひらが真っ赤になっていることもしばしばです。
ですが、力が入っているのは手だけではないかもしれません。
知らず知らずのうちに歯を食いしばっている可能性も高いのです。
この無意識の食いしばり(噛みしめ)、歯にとってはかなり厄介なのです。

ヒトは普段、上下の歯は噛み合っていないのが一般的です。
噛む筋肉や歯を支える歯根膜という靱帯は通常は休んでいて、いざ噛むときに力を発揮するわけです。ところが噛みしめの習慣がある人の筋肉は休むことなく働き、靱帯にも力が加わり続けることになります。筋肉が休むことができないと顎関節症や肩こりの原因となります。また、歯周病の原因は細菌感染ですが、靱帯に力が加わり続けることは歯周病を進行させる因子になります。

夜、寝ているときの噛みしめや歯ぎしりはさらに大きな影響をもたらします。
一般的にものを噛む際、奥歯では自身の体重と同じくらいの力が発揮されます。けれども、夜間、無意識に発揮される力はその数倍にもなると言われています。歯ぎしりにより歯の噛む面は摩耗し、根元のエナメル質は剥離して知覚過敏や虫歯の原因となります。更にひどい場合には、自分で自分の歯を割ってしまうこともあります(歯根破折)

たかが食いしばりといって侮れません。虫歯でもないのに、どの歯と特定できずに痛みがある、入れたばかりのセラミックの詰め物が、固いものも食べたわけでもないのに気が付いたら欠けてしまったなど、そのような問題も引き起こしかねません。

このような悪さをする噛みしめ・食いしばりを防ぐ、もしくは被害を最小限に抑えるための治療法ですが、その原因によって異なります。

  • 夜間の無意識な噛みしめ・歯ぎしりにはマウスピースの装着が効果的です。
  • 昼間の噛みしめの場合、マウスピースを装着していると見た目に悪く、また会話がしづらくなりますので、ご自分で噛みしめないように意識することが大切です。また、長時間、根をつめてパソコンに向かうなど、同じ姿勢を取り続けないことも予防のひとつです。
  • ストレスが原因の場合、ストレスを取り除くことが一番ですが、職場が変わったら歯ぎしりがひどくなったとおっしゃる患者さんもおられるように、現代社会ではある程度のストレスはつきものです。うまくストレスと付き合ってやり過ごしていただくか、難しい場合は、やはりマウスピースの装着が効果的です。
  • 噛み合わせのずれが原因の場合もあります。これは自覚が難しく、ご自分では気がつかない場合がほとんどです。当院では初診時、噛み合わせのチェックをさせて頂くことが多いのですが、4人に1人は、大なり小なり噛み合わせのずれが認められます。これが原因の場合は、噛み合わせの調整をすることにより歯ぎしり・噛みしめの症状が焼失・軽減します。詳しくは「顎関節症・咬合治療」をご覧ください。

サッカーワールドカップに起因する一過性の噛みしめは、もう少し我慢すれば、4年間は治まるでしょう。私も含めて、気を付けましょう。

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“噛む”ということ

“噛む”ということ

先日、アメリカ・アリゾナ州で行われた3日間の歯科の講習会に参加して参りました。
内容としては、歯がすり減ってしまった患者さんに対し、噛み合わせを十分に考慮したうえでいかに効果的な審美治療を実践できるかに関するものでした。

重要なことはということです。噛み合わせを考えない歯科治療は顎関節症などの機能障害や被せ物の破折など、失敗につながります。

歯はもともと、食べ物を噛むためにあるのだから、歯医者が噛み合わせを考えるのは当たり前だろうと皆様はお考えになるでしょう。ですが、実際には全ての歯科医師が噛み合せを十分に理解しているわけではなく、どちらかというと、患者さんからもはっきりわかる見た目の綺麗さ、つまり審美性を優先し、噛み合わせを二の次にした歯科治療が残念ですが実際に存在します。

写真私たち歯科医師は、歯の詰め物、被せ物などをお口の中に装着する際に、高くないか、きつくないか、必ず患者さんに噛んでいただいて確認します。ですが、本当の意味での正しい噛み合わせはそんなに単純なものではありません。人間の体は本当にうまく出来ており、顎の関節の構造により、人はどの位置でもとりあえずは噛むことができるのです。間違った位置でずっと噛み合せが固定されてしまうと、いずれ耐え切れなくなった顎関節と顎の筋肉が悲鳴を上げて、顎の痛み、肩こり、頭痛などの症状が出てくる場合がありますので、歯科医師が間違った判断をしてしまうと体全体に関わる重大な事態を引き起こすことになりかねません。

かくいう私も学生時代に噛み合わせについて教育を受けましたが、お恥ずかしい話ですが、明確な理解をしておりませんでした。今となって考えると、教える側にも確固たるものがなかったのではないかと思います。卒業して大学院へと進み、助手、講師と進んで補綴の専門医となり、私自身が教える立場となっても、状況は同じでしたので本当に冷や汗ものです。

その後、開業して2年後の1999年、サンフランシスコ近郊で開催された噛み合わせについての講習会が私の興味をひき、とりあえず参加してみました。そこで初めて自分で納得のいく噛み合わせ(専門用語で咬合[こうごう]といいます)理論に接することができたのです。

講師である日系アメリカ人、Dr. Teru Haradaによるドーソン咬合理論の講習と実習に感銘を受けた私はその後、4回にわたり足を運び、自分の血肉になるよう励みました。現在、この講習会はDr. Haradaが来日して日本で開催されており、私もアシスタントを務めるまでになりました。(このあたりの内容については当サイト内の診療科目(顎関節症・咬合治療)のページ でもう少し詳しくお話させていただいております。)

現在、多種多様な咬合の理論が存在し、なかには特殊な機器を使用し、かなりの額の治療費を設定しているところも見受けられますが、ドーソン理論には特別な道具等は必要なく、理論を理解し、トレーニングを受けたならば、歯科医師ならある程度のレベルまで実践できるものです。以前は顎関節症の患者さんが来院されると、即効性のある適切な治療法はないものかと悩ましい日々を送りましたが、今では確信を持って治療に当たることができ、また、患者さんにも治療結果に満足していただけるようになりました。また多くの歯を失い、噛み合わせが崩壊してしまって、何を基準に治療を考えたらよいかわからなくなってしまった患者さんの治療も明確なゴールを持って、迷い無く治療に進むことができるようになりました。

この理論を日本でも多くの歯科医師が理解し、実践していただこうとDr. Haradaや仲間の先生方と一緒に頑張っているのですが、インプラント療法などとは違い、医院の増収にすぐには直結することのない咬合の講習会は日本では地味で、人気が低いのが現状です。

今回のアリゾナでの講習会も、お盆の時期ということもあって、航空運賃もかさみ、また現地への往復の移動時間と講習会の参加時間がほぼ同じ、さらには自由時間が全く無しのトンボ帰りという強行軍でしたので、疲労困憊で帰国した私を見て、家族からは“それほど大事な勉強会なのですか?”という、ギモンというか、ヒハンの目が向けられました。

しかしながら、今日も咬合治療を受けられた一人の患者さんが、いつの間にか、噛み合せが楽になって、噛むことを意識しなくなったと、喜んでお帰りになりました。こういう方が一人でも増えていくことが私の願いです。患者さんが正しく噛めるように治療するのが歯科医師の使命、これからもアメリカに通いますぞ!