歯科医師人生における4人の師 ②

前回に引き続き私のメンターと言える4人の先生のうち、残りのお2人について紹介させて頂きます。私が歯科医院を開業してからお世話になったカリフォルニア在住のTeru Harada(てる はらだ)先生と、眞坂歯科医院の眞坂信夫(まさか のぶお)先生です。

まずHarada先生についてです。
私がまだ開業して間もないころ、カリフォルニア州パロアルトで開業されている同先生によるドーソン咬合(噛み合わせ)理論の講習会の案内が歯科雑誌に掲載されていました。咬合が極めて大切である歯科補綴(しかほてつ)学の講座に在籍していたにもかかわらず、確固たる咬合理論を身につけていないことがずっと気になっていた私は、思い切って数日間休診し、この講習会に参加しました。

日本語と英語が混じる奇妙なレクチャーでしたが、その内容に感銘を受け、その後も5回、先生の講習会に通いました。その後、Harada先生が来日してレクチャーをするようになったため、日本でのコース開催に携わるようになりました。
下の画像は2005年に当院で行われた講習会のものです。

Harada先生からご教示頂いた咬合理論は現在の私の治療の根幹となっています。
この咬合理論の習得無くしては自信を持って治療を行えなかっただろうと思うと、思い切ってパロアルトに行って良かったなとつくづく思います。Harada先生は数年前にリタイアされ、お目にかかる機会もなくなりましたが、私の好きなワインの産地ナパ・バレーにも近い先生のお宅をまた訪ねてみたいと思っています。

最後は破折歯保存治療についてご教示頂いた眞坂信夫(まさか のぶお)先生です。
東京歯科大学の大先輩ですので、以前からお名前は存じあげておりましたが、6年ほど前、大学の同窓会主催の講習会で歯根破折の治療についてお話を伺う機会を得ました。

学生時代、大学では破折した歯の治療方法は抜歯と教えられてきましたので(現在も同じだと思います)歯根破折症例に対しては、私もそれまでは教科書通りに何の迷いも無く抜歯を行って参りました。

歯根が割れた歯を残すことができるなんて、まさか(眞坂)ね・・・」と、最初は半信半疑だったのですが、先生のお話が進むにつれ、治療の理論背景がしっかりしており、長期の経過症例を見せていただいたことにより、頭の中に一筋の光が走ったような衝撃を感じました。

その後、眞坂先生が個人的に講習会を開催していることを知り、すぐに参加いたしました。以来、この治療法を自分の臨床に導入し、多くの患者さんの歯を保存することができました。

私の専門は失われた歯をインプラントブリッジ・義歯などで補うこと=補綴(ほてつ)ですが、歯を失わずに済めば、患者さんにとってはその方が遙かに望ましいことだと思います。
実は、私自身の歯にも信頼できる先生に本法で加療していただき、1本保存することができました。自分自身で受けているのでよく分かるのですが、歯を抜かずに残せたときの喜びは非常に大きいものです。受付で涙を流される患者さんもおられます。

このような治療法を開発され、ご自身の専売特許とするのではなく、後輩の歯科医に教えて下さった眞坂先生には本当に感謝しております。私より17年先輩ですが、非常にお若く、自ら講習会や勉強会を開催され、またWEB会議を取り入れるなど、新しいことにもどんどん挑戦されているお姿には感動させられます。

ここまでに紹介させていただいた4人の先生方、いずれが欠けても、歯科医師としての現在の私はありませんでした。このような先生方に出会う機会を与えて下さった神様に感謝せずにいられません。

4人の先生方から教えて頂いたことは、私もいずれ、後輩達に引き継いでいきたいと考えております。

歯科医師人生における4人の師 ①

歯科医師となって35年の月日が流れました。
この間、多くの方から様々なことをご教示頂きましたが、その中でも特にメンターと言える4人の先生がいらっしゃいます。今回はこれらの先生方とのつながりについてお話ししてみたいと思います。

まずは東京歯科大学を卒業し、歯科医師人生を踏み出した24歳の時、大学院生として入局した歯科補綴(ほてつ)学第三講座主任教授、関根弘(せきねひろむ)先生です。

当時、新人の大学院生には「教授当番」という仕事があり、同期の新人5人と交代で一日中、教授のお世話をする日がありました。
まず教授が出勤されるとコーヒーを煎れ、教授室に予定表を持って行き、1日の予定を確認します。
教授が出かけられる際には自分の車で駅まで送迎します。
昼食時には学生食堂で列に並んで食事を教授のテーブルまで運びます。
学生の授業では、板書が済んだ部分を、タイミングを見計らいながら黒板消しで綺麗にしていきます。
夜も教授の予定が空いているときは、夕食をご一緒させていただきました。

今思うと、昔の書生のようなもので、小説「白い巨塔」に出てくるような生活でした。
もちろん緊張感はありましたが、カリスマの塊のような先生から直接、研究者、教育者としての基本を教えて頂くことができ「教授当番」は、私には全く苦にはなりませんでした。

私の父が関根先生と大学の同級生で仲が良かったこともあり、可愛がっていただきましたが、20年前に急逝されました。東京歯科大学学長や日本歯科医学会会長までされており、日本の歯科界にとっても大きな損失だったと思います。
私が尊敬する4人の先生方のなかで、ただ1人、故人となってしまいましたが、結婚祝いに頂戴した優雅な置時計が、自宅の机の上で25年以上、私をゆっくり見守ってくれています。

2番目は同じく東京歯科大学で講座の大先輩で、インプラント治療に対する歯科医師の心構えと技術を教えて頂いた小宮山彌太郎(こみやまやたろう)先生です。

小宮山先生は私が大学院に入学した年、丁度、スウェーデン留学から戻られました。自分では勝手に運命的な出会いだったと思っています。
私には同講座で初めてインプラント関連の研究テーマが与えられ、小宮山先生が論文指導者となられました。勉強や学会発表のための海外出張も多く、朝から晩まで一緒に過ごさせて頂き、学会発表の手順や他の研究者との付き合い方など、多くを学ばせて頂きました。また、私の長期にわたるスェーデン出張の際には、小宮山先生のご家族と同じ屋根の下で過ごさせて頂きました。

大学でご一緒させて頂いた間、私は先生の背中を見ながら育ったと言っても過言ではありません。
小宮山先生を通じ、近代インプラント治療の祖であるブローネマルク教授に孫弟子として師事することができ、そのご縁でベルギーのリューベン大学に留学する機会を得ました。
現在はどちらも都内で開業している身ですが、何かにつけ相談にのってくださる有難い師です。

昔話のようで恐縮です。
長くなりましたので、残りのお二方については次回のコラムで紹介させていただきたいと存じます。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

歯科を外から眺めてみる

先日、長く定期検診に通って下さっている患者さんとお話していて、数年前に退職した歯科衛生士の話題となりました。彼女は2年ほど前に手を痛め、歯科の仕事を離れたのですが、その技術と優しい物腰で、患者さんからも院長先生からも絶大の信頼を得ていた優秀な衛生士さんでした。
このブログをお読みになっている当院の患者さんがおられたら、あの衛生士さんかしら?と思い浮かぶ方もおられるかもしれません。

どうしているかしらと懐かしくなり、久しぶりに連絡を取ってみました。暫くしてお返事が来たのですが、やはり今は歯科のお仕事には就いていないとのこと。ただ、歯科の世界を離れ、一般の方とお話ししていると、そのギャップに驚くことが多いとも書いていました。
歯科の専門職ならあまりにも当たり前のことでも、患者さんにはわからないことが沢山あるということなのだと思います。彼女も数年前までは歯科の専門職として診療室におりましたので、歯科界の外に出て、驚いたことが多いということなのだと思います。

彼女が言いたいこと、私は良くわかります。私は受付職ですので、歯科の専門教育は受けておりませんが、治療の内容を知らなければ患者さんとお話できませんので、経験と聞きかじりの知識はありますが、基本的には患者さんと同じ一般人です。
ですので、院長先生は衛生士さんが当たり前と思うことでも、患者さんはわからないのでは?と思うこともあります。そのような場合、診療が終わって待合室に戻られて、頭の中が?マークでいっぱいのような患者さんには積極的に話しかけて疑問を伺い、場合によっては診療室にお戻りいただいて、再度、院長先生に説明していただく場合もあります。

この衛生士さんは、ゆくゆくは歯科医院と一般患者さんのギャップを縮め、うまく取り持つような仕事をしたいとも書いていました。優秀な衛生士さんが臨床を離れてしまうことはとても残念ですが、ただ、当院の卒業生がそのように将来の目標を持ち、ステップアップして頑張っていることはとても嬉しく思います。もう母の気分ですね。(笑)

私が出来ることと言えば、せいぜい当院の中で診療室と待合室を結ぶくらいですが、この衛生士さんはきっともっと影響力のあるお仕事ができると思います。当院で彼女のお仕事のお手伝いできることがあれば、是非、声をかけてね!と、彼女へのメールを締めくくりました。

吉田デンタルクリニック
受付 菊地

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開院20周年を迎えて ― 医療は人なり

吉田デンタルクリニックは2017年4月12日で開院20周年を迎えました。
これまで沢山の方々に支えて頂き、私の好きな仕事を続けてこられたことを、この場を借りて皆様に深く御礼申し上げます。
20年前、大学病院の勤務医から、いきなりこの東京のど真ん中で開業し、自分の考える最良と思う診療を行ってきたつもりですが、ここで一旦、過ぎし日を振り返り、またこの先のことを考えてみました。

この20年間、歯を失ってお困りの方にはインプラントブリッジ・義歯などを、噛み合わせでお悩みの方には咬合治療を、また、この5年ほどは、歯の根が折れたり割れたりして、かかりつけ医からは抜歯しかないと言われたが、何とか抜かずに残したいと希望される方々には歯根破折保存治療を、というように、できるだけ患者さんのご要望に沿えるよう、一生懸命、診療を行って参りました。

私は基本的に楽観主義者で単純な人間なので、患者さんに「有り難うございます」と言って戴けると、「あぁ、上手く行ってよかったな」と言葉通りに素直に受け取ってしまいます。けれども、いくら私が頑張ってみても、どうしても人智の及ばない領域で、残念な結果に終わる場合もあります。ここで考えてみたいのは、そのような場合、治療を受けられた患者さんがどう思われているのか?ということです。

昨年ですが、NHKの「ドクターG(ジェネラル)」に出演された高名な心臓血管外科である南淵明弘先生の一言に非常に感銘を受けました。それは「医療においての成功(率)とは医者が決めるのではなく、手術を受けた患者さんが術後、元の生活に戻り、治療を受けて良かったと思ってくれて、初めて成功と言えると思います。」という内容でした。
私が以前、破折保存治療の経過について書いたコラムで、“成功率は概ね87%”などと書かせて頂きました。この治療を検討されている患者さんの参考になればと出した数字なのですが、全く医者側の成功率であります。人の生死にかかわる難手術を行う大変な名医であられるのに、謙虚な南淵先生のお言葉を聞き、私は己の未熟さを痛感しました。

同じ心臓血管外科医で天皇陛下の手術をされた天野篤先生の著書の中にも「病を癒やすは小医、人を癒やすは中医、国を癒やすは大医。せめて中医になれるように努力しなさい。」という一文があります。これもまた、私の心に響きました。

開院20年を経て、私と一緒に患者さんも歳を重ねてこられました。お見送りした方も数名おられます。歯以外にもご病気がある方、ご家族の介護などで時間が取れず、ご自身の治療に来たくてもなかなか診療に来られない方も増えて参りました。いくらインプラントや補綴治療の専門医と言えど、全身疾患や、生活環境など、患者さんのバックグラウンドを知らずに口腔内を見ているだけでは歯科医は勤まらないですね。あと数年で還暦となりますが、まだまだ人間が出来ていないと、最近つくづく思います。

「医療は人なり」これは私のモットーであり、吉田デンタルクリニックの基本理念であります。
この理念は当院スタッフと共有しているのですが、患者さんにも「吉田という歯医者に診てもらってよかった」とおっしゃって頂けるよう、技術を磨き、患者さんに寄り添う気持ちを忘れず、30周年に向けて研鑽を積んで参ります。「医療は人なり」です。

そこはかとない緊張感

そこはかとない緊張感

さて、今回は歯科の世界を離れ、ベルギーのお話をさせて頂きます。
なぜベルギーかというと、ベルギーは私が吉田デンタルクリニックを開業する以前の大学在職中、短期間ですが留学をしていた思い入れのある国なのです、
1994年のことですから、もう22年も前のことになります。

本年2016年はベルギーと日本の友好150周年の記念の年であり、そのためか、比較的ヨーロッパの中ではマイナーな(?)存在であるベルギーを特集した番組が多いようで、今年に入って既に3回も放映がありました。そのなかで印象に残った言葉があります。

「そこはかとない緊張感」

ベルギーに「そこはかとない緊張感」が漂うのは、この国がかなり複雑な環境にあるからです。
面積は日本の四国の1.5倍ほどですが、1993年の憲法改正で連邦制に移行し、ブリュッセル首都圏地域、フランドル地域(北側半分)、ワロン地域(南側半分)の3つの地域と、フラマン語(オランダ語)共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体の計6つの組織で構成されています。日本人からみるとチョコレートとワッフルと小便小僧で有名な美食の国でありますが、内情はなかなか大変です。

私が見た番組の一つでは、同じベルギー人でありながら、集まって会話をする際、それぞれが相手の語学力を考えながら適切な言語を選んで会話するという場面がありました。また、フランドル地域とワロン地域には経済的な格差もあり、イギリスのスコットランドやスペインのカタルーニャ同様、独立運動の動きもあります。その際、「そこはかとない緊張感」という言葉が出てきたのでした。

私の留学先は首都ブリュッセルから車で30分ほど、オランダ語圏のルーヴェンという町でした。
世界中から学生が集まっていたので、公用語は必然的に英語でしたし、大学町でしたので治安も良く、その頃は能天気に暮らしていたものでしたが、昨年のパリでのテロ事件の主犯がベルギーで生まれ育ったベルギー人であることにはとてもショックを受けました。ただ、ベルギーがあのように言語・民族・人種が複雑に入り混じった国であることを鑑みると、客観的に見ればさほど不思議ではないのかもしれません。

今年は2年に一度、市の中心部にあるグランプラスという広場で開催されるフラワーカーペットの年に当たります。ベゴニアの生花を巨大な花のじゅうたんとして敷き詰めるこのイベント、毎回のテーマがあるのですが、今年は「日本」だそうです。

ベルギーブリュッセル・グランプラスのフラワーカーペット

写真は私の滞在時のフラワーカーペットの様子です。
これからもベルギーが「そこはかとない緊張感」を保ちながら、同時に平和な国であってほしいと願っています。そして今年のフラワーカーペットが、無事に開催されることを祈ります。

あまりに毛色の違った院長コラムになってしまったので、ここで強引に歯科治療に結び付けようと思うのですが、「そこはかとない緊張感」は、治療を行う上で、患者さんにもあったほうが良いと思います。

「全て先生にお任せします。」という患者さんがたまにおられます。
歯科医師を信頼してくださってのお言葉と思い、有難いのですが、それでもご自身の身体にかかわる問題なので、ある程度、治療に積極的にかかわり、ご希望やご心配なことはおっしゃっていただいたほうが、より治療の成功につながると思います。

もちろん、私は「そこはかとない緊張感」ではなく、「120%の緊張感」をもって治療に当たります。
本年もどうぞ宜しくお願い致します。

洗練された平凡 ― 見えるということ

洗練された平凡 ― 見えるということ

2015年の最初のコラムとなりました。
皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年の年末年始は珍しく家におりまして、特に何をしたということはないのですが、録り溜めていたテレビ録画を一挙に片付けました。その中でひとつ記憶に残った言葉があります。
昨年のNHKの朝の連続ドラマ「花子とアン」の総集編で、花子がつぶやいた言葉です。
「私は洗練された平凡を求めよう。」

最近、従来のものに加え、さらに拡大率の大きなサージテルという拡大鏡を導入しました。
歯科はもちろん、脳神経外科、心臓血管外科、形成外科など、細かい部位を見ることを必要とされる外科系のドクターにとっても必需品かもしれません。そういえば、あのドクターXも手術中はこの拡大鏡を使っていましたね。

私が従来使用していたものは2.5倍、今回のものは8倍です。また、従来の拡大鏡よりさらに明るいLEDのヘッドライトもつけておりますので、その細部の見え方といったら比べものになりません。

本文

外科的な処置を伴う歯科治療では、治療部位が目視できないとお話になりません。
ドクターXのなかでも、師匠であるアキラさんは、まだ駆け出しの頃の大門美智子医師の指導にあたり、「川の水が流れるように基本手技を反復し、美しい最終術野を作る、それが私の考える理想の手術」と話していました。
要するに手術に際しては、基本手技を完全に自分のものとして、よく見えるきれいな術野を確保しなさい、ということです。これはそのまま歯科治療にも当てはまります。

近年、歯科用顕微鏡が徐々に普及してきました。特に根管治療(根の神経の治療)においては有用であり、根管治療専門医は殆どが使用されているのではないでしょうか。
私はブリッジ・インプラントなどの補綴(ほてつ)治療が専門ですが、補綴治療の前に、しっかりした土台作りとしての根管治療が必要な場合があり、私も顕微鏡の導入を検討いたしました。

確かに治療の状況を写真や映像に残すことが可能である点と、拡大率に関しては顕微鏡のほうが優れています。ただ、一点を見つめ続ける根管治療より、補綴治療で歯を削ったり、型採りの使用頻度が高いことを考慮すると、機動力の高い拡大鏡の方が私の治療スタイルには向いているという結論に至りました。顕微鏡であれ、拡大鏡であれ、医師が必要とするきれいな術野を確保できればよいわけです。

新しい年を迎え、特に目新しいこと、奇をてらったことを始めるわけではありませんが、患者さんの口腔内をよくよく見るということ、この当たり前ですが、「洗練された平凡」をもって、8倍の拡大鏡という新兵器とともに、今年も“こぴっと”(きちんと・しっかりと)理想に近い治療を目指していきたいと考えております。

歯科医療の保険給付について考える

歯科医療の保険給付について考える

以前の私のコラム「シニア世代の後悔第1位は・・・」では、雑誌「プレジデント」の「金持ち老後、貧乏老後」という特集で、リタイア後のシニアに行ったアンケート、「リタイア前にやるべきだったこと」の調査結果について書かせていただきました。ご興味のあるかたはこちらからご覧ください。

この特集は2年前ですが、よほど反響が大きかったのか、プレジデント社は今年も同じ特集を組んでいます。老後が気になる世代に突入している私も読んでみたところ、今回は世情を映してか、前回に比較してより切実な、悲壮感漂う内容になっているように感じました。

今回の特集では歯科に特化したコメントはなかったものの、「リタイア後に待ち受ける6つの強敵」のなかのひとつに、「医療費負担アップ」が挙げられていました。
「病院に行けない時代到来」とも書いてあり、なんともショッキングな見出しです。

確かにこれだけ高齢化社会が進み、日本人の寿命が延びれば、いくら「ピンピンコロリ」が理想と言っても、いつかは医療機関のお世話にならざるを得ないのが現実です。高齢化に加え、急激な少子化で現役世代は減る一方ですから、増え続ける高齢者の医療費を現役世代が支えるという現在の公的医療保険を、将来にわたって維持できると考えるのは、確かに楽観的すぎるかもしれません。

現に、今年4月よりこれまで1割負担で済んでいた前期期高齢者(70歳~74歳)の窓口負担が2割へ引き上げられました。国民健康保険はもとより、組合健保も8割は赤字だそうです。さもありなんです。

現在の日本の公的医療保険は、国民が皆平等に一定の医療を受けられる優れた制度です。
では海外ではどのようなシステムなのか、歯科医療に限って健康保険給付状況を調べてみました。

健康保険連合会が行った海外の医療保障についての文章を読むと、予防に力を入れるヨーロッパ諸国では、歯科医療は健康保険の対象外というところが多いようです。
また日本の保険制度のモデルとなったドイツでは、虫歯や外科処置等は保険の対象になるが、補綴治療(詰め物をする治療やブリッジ、義歯など)は対象外になっています。また、定期検診を受けていれば治療費が安くなるというシステムもあるようです。いずれにせよ、歯科治療全般が公的保険でカバーされる国は、先進国では日本くらいではないでしょうか。

本文

先日、虫歯の治療にいらした患者さんに、健康保険の治療と自費治療との違いについて説明させていただいたところ、保険内の治療で良いとのことでした。理由は、「どうせまたすぐ虫歯になるから、なったらその時また治療すればいいから。」とのことでした。虫歯の自費治療費が数万円になるのに比べ、保険では数千円で治療できるため、たとえ治療の精度が劣って繰返しの治療になったとしても、経済的負担が少ないほうがいいとのお考えなのだと思います。

ただ、歯科治療についてひとつ注意しなければいけないのは、歯は再生しないということです。風邪は完治すれば元の体に戻りますが、虫歯の治療を行えば、体の一部が削られて無くなり、いくら詰め物で補っても決して体は元通りではないということです。そして治療を繰り返せば、当然ながら体の一部はどんどん少なくなってしまいます。

以前、30年後の日本を想定した小説を読んだのですが、インフレが進んで物価高となり、スターバックスのコーヒーが1000円を超え、歯科医療は保険から外されたという設定になっていました。コーヒー価格はわかりせんが、後者に関してはかなり現実味があると思います。歯科治療が健康保険から外されれば、現在のような安価で治療を受けることはできなくなるでしょう。

「保険を使えば安いから、とりあえず保険で治療して、また虫歯になったらその時治療すればいいや」
と安易に現在の健康保険に寄りかかっていると、いずれ取り返しのつかない事態になるかもしれません。

良質な歯科医療 ― 吉田カバンに通ずるもの ―

良質な歯科医療 ― 吉田カバンに通ずるもの ―

最近、興味深いドキュメンタリー番組を3つ見ました。

ひとつはBSの番組で「中国人によるメイドインイタリー」というような題名だったと思います。イタリアの服飾業界で、一労働者としてイタリアに渡った中国人グループが自身の縫製工場を立ち上げ、不法滞在の中国人労働者を雇って安く大量生産した製品をイタリア製として販売し、品質に劣るイタリア製が出回っているというものです。

ふたつめは「アウトレットの真実」という番組です。
もともとはB級品や、正規販売店での売れ残り商品を扱うはずであるアウトレット店ですが、アウトレットを訪れる客が増え、商品が足りなくなり、メーカーが最初から正規品より質を落としてアウトレット専売品を作ったり、海外で安い製品を購入し、タグだけ自社のものをつけてアウトレットで売っているというようなものでした。

そして、最後に見た番組が「吉田カバン」の特集でした。
吉田カバンは国産にこだわり、広告はしない、値引きはしない、そして職人を絶やすな、が社是であるそうです。仕事を請け負う職人はみな、高い品質が要求される吉田カバンの仕事は大変だと話されていましたが、会社は要求に応えられる職人には相応の報酬を支払うため、職人としてのやりがいを感じているようです。きちんとした職人であれば、粗悪品を作るよりは、多少の苦労はあっても良質なものを作りだすことに誇りを見出すはずです。厳しい価格競争のなか、削れる経費は削り、職人には真っ当な報酬を支払い、高品質なものを適正な値段で送りだしているのです。

良質な歯科医療 ― 吉田カバンに通ずるもの吉田カバン以前の2番組を見て、現代社会の有り様に閉塞感を感じていましたので、吉田カバンの放送に、“あぁこのような会社があるのだ”、と正直ホッとしました。
ホッとしたと同時に、待てよ?これは、我が吉田デンタルクリニックに共通するものが多いのでは?と思いました(知名度はかなり違いますが)。

当院も広告はせず、値引きもせず、先日、おかげさまで開院15周年を迎えました。
吉田カバンの職人を歯科に置き換えて見れば、歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士が職人に当たると思います。

当院の場合

  • 歯科医師は私のみで、全ての患者さんを私が拝見します。
  • 医療業界全体が求人難のなか、歯科衛生士の確保は大変ですが、資格を持っていれば誰でも良いというはずも無く、私が患者役になり技術面のチェックをパスした歯科衛生士を採用しています。
  • いくら私が頑張っても、肝心な修復物を作製する歯科技工士の技術が伴わなければ、良質のものは作れませんので、コスト度外視で安心して任せられるレベルの高い歯科技工士にお願いしています。当院だけは無いと思いますが、「技工料、お安くしますよ」という歯科技工所の飛び込み営業が頻繁に来ますので、技工の質を落として利益を上げることは容易かもしれません。これは患者さんからは最も解りにくいところですので、歯科医師の倫理観・職業意識に任されるところだと思います。

中国人によるメイドインイタリーでは、イタリア製の割には低価格と一度は買う人がいても、品質が伴わなければ、長く顧客であり続けるかは疑問です。
またアウトレットでは、売る商品が足りないからと専売品を作り、短期には売上が上がっても、ブランドイメージを損ない、結局は客離れを引き起こすことにならないでしょうか。

吉田カバンの場合、ここの商品であれば安心と、複数個のカバンを購入する客が少なくないそうです。それは、値段では中国製には敵わないけれど、しっかりとした製品で、しかもきちんと修理にも応じてくれる吉田カバンの製品は、長期間使用でき、結局のところお買い得ということになるのでしょう。

私も歯科業界の一職人として、「吉田先生に任せれば安心」とおっしゃってくださる患者さんを増やしていくことができるよう、地道に愚直に、職人芸を磨いていきたいと思っています。

開院15周年を迎えて - 好きな仕事が続けられる幸せ -

開院15周年を迎えて - 好きな仕事が続けられる幸せ -

当院はこの4月で開院15周年を迎えました。
開業以前は長く大学におりましたので、歯科の専門分野しか知らない世間知らずが、いきなり東京のど真ん中に開業し、周囲からは、“1年もたないだろう”と思われていたようですので、このようなご報告ができるのも、私を信頼してくださる患者さんと、周りで支えてくださる多くの方々のお蔭と有難く思っております。

この15年の間に、私の専門分野であるインプラント治療を取り巻く環境の変化、当院の位置する中央区京橋という地域の変化(現在、再開発の真っ只中です)、コンビニより多い歯科医院と言われ、歯科医師過剰が叫ばれる歯科界全体の大きな変化など、様々な変化がありました。

特にインプラント治療を取り巻く環境は激変したように思います。

開院15周年を迎えて私とインプラントの出会いは30年ほど前に遡ります。大学の講座の先輩である小宮山先生との運命的な出会いが始まりでした。ブローネマルク教授が開発したインプラントを小宮山先生がスウェーデンから持ち帰り、義歯とは比較にならない高いレベルの治療法が発見されたこと、そしてこの画期的な治療法を日本に初導入できることに、当時の東京歯科大学インプラントチームは皆、純粋に歯科医師としての誇り・やりがい・喜びを感じていました。この治療法を取り入れたら大学病院の収入が上がるといったような計算などありませんでした。

それがいつの間にか、自由診療であるインプラントを医院の収入の柱にすべく、とにかくインプラントに誘導するような風潮が生まれ、当然の結果としてトラブルが急増し、適切に行われたならば、非常に有効であるはずのインプラント治療に負のイメージがつきまとってしまったことは、本当に残念でなりません。

ブローネマルク教授もおっしゃっておられますが、インプラント患者さんと歯科医師は一生のお付き合いになります。私の歯科医師生命か、患者さんの生命がどちらかが終わるときまでのお付き合いということです。私の患者さんも大学勤務時代からの方は25年以上のお付き合いの方が増えてきました。定期的に検診でお会いするので、もう家族か親戚のような感覚です。私と同様に患者さんもお歳を召され、高齢化社会の中でこれからのインプラント治療がどうあるべきか、インプラントに限らず、個々の患者さんにとってどの治療法がベストの選択なのか、常に問い続けていかねばならない、それが歯科医師としての私の使命だと考えています。

最近、アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の伝記を読み終えました。常軌を逸した行動も多く、敵が多かったのも肯けますが、彼が揺るぎない信念をもって好きな仕事に邁進した点には深く敬意を表します。

ふと自分の身に置き換えてみると、私も歯科医師の仕事が好きなのだな、とつくづく感じます。患者さんに噛める歯が入り、噛む喜びを取り戻した患者さんの笑顔を拝見すると、大学卒業後30年間、自分の好きな仕事が続けられる私は本当に幸せ者だと感じます。これからも私の診療の理念である”基本に忠実に“を守りつつ、自分の選んだ道を信じ、患者さんやスタッフと共に歩んで行きたいと思っております。

歯科の口コミにもご用心

歯科の口コミにもご用心

歯科医院を開業していると、毎日、様々なダイレクトメール送られてきます。
殆どはそのまま開封せずにゴミ箱行きとなりますが、昨年一番驚いたのは、Yahoo知恵袋への書き込み代行のご案内でした。Yahoo知恵袋といえば、昨年の京大受験のカンニング事件で大きく取り上げられましたが、かなり一般に浸透していると思いますし、私も時々参考にすることがあるのでショックでした。

歯科の口コミにもご用心 あまりに衝撃的だったので、話の種にと資料を手元にとっておきました。案内を開封して内容をスタッフにも伝えたところ、皆、驚いていたことを覚えています。
ところが、先日、飲食店の口コミサイトで業者が有料で請け負っていた口コミ投稿問題が大きく報道されましたので、当院に来たのもその歯科版なのかと納得しました。

飲食店であれば、一度行って美味しくなければもう行かなければ良いだけですが、虚偽の口コミを信じて医療機関を受診したら悲劇でしょう。

今回の事件から学べる教訓は、「口コミは参考程度に。」
もともと口コミは個人の主観によるもので、年齢・性別・職業など、環境が違えば価値観も違うのは当然で、冷静に考えれば、投稿者の価値観をそのまま鵜呑みにできるはずがありません。

では医療機関の場合、口コミがダメならどのように選べば良いのかと聞かれると、これがなかなか難しいところです。私自身も歯科以外を受診する場合、かなり悩むと思います。やはり実際に通院された患者さんに伺うのが一番なのでしょうか(これも口コミではありますが少なくとも誰が言っているのかはわかりますので)。

もしインプラントに関してのお悩みなら、「小宮山先生との対談」、もしくは「医院選びでお悩みの方へ」が、何かしらのお役に立つかもしれません。

1983年のインプラント治療の日本への初導入のチームメンバーのひとりとして、患者さんが少しでも良い治療を受けていただけるよう、できるだけ客観的に述べたつもりです。