歯の神経を抜く(抜髄)ということ

特に私の専門とする領域であることから、患者さんの歯の不具合を生じた古い修復物を外し、新しいものにやり直す補綴(ほてつ)治療を毎日のように行っています。

事前に患者さんにご説明する治療計画としては、以下のような流れとなります。
① 問題のある古い修復物を除去する
② 歯が見える状況になってから虫歯等を取り除く
③ 健康な歯質を出した状況で新しい被せ物を作製する

ただ実際に処置に入り、ふたを開けてみると(古い修復物をはずしてみると)、被せ物の下の歯はもうボロボロで、虫歯を取り除いていったら歯が無くなってしまうような状況で、結果として歯を残せないことも珍しくありません。

そういう歯は決まって神経を取り除いてある歯です。

歯の神経を専門用語で歯髄(しずい)と言いますが、この歯髄は歯根の先端に開いている穴を通し、顎の骨から神経と血管が入り込んで成り立っているもので、感覚と栄養供給を司っています。

この歯髄を取り除いてある歯は痛みが出ないため、虫歯になっても気がつかず、また、血液が通わないため、歯が脆くなってしまいます。木が立ち枯れているようなものです。枯れ木は、見た目は木の形はしていますが、枝を折ったらポキっと簡単に折れてしまいすよね。神経を抜いた歯とは、歯の形はしていても、枯れ木同様に脆い状態で、硬いものを噛んだりすると、歯根破折を起こす可能性が高くなります。

先日、歯根破折歯保存治療で通われている患者さんが、帰り際に受付で
「神経を抜いた段階で、歯は余生に入るんですね。」
としみじみとおっしゃったそうですが、歯根破折を経験された患者さんの、的を得たお言葉だと思います。
歯根が破折してしまう歯の殆どは失活歯(歯髄の無い歯)ですし、ごく稀に生活歯(歯髄の残っている歯)が破折する場合もあるのですが、失活歯に比べ、総じて治療後の経過も良好です。

最近では神経を残すことの重要性を理解されている患者さんが増えてきて、歯科医師としては非常に喜ばしい事だと思っております。
生活歯が虫歯になってしまった場合、虫歯を削っていったら思ったより深く、歯髄が露出する場合もあるのですが、私は患者さんに状況を説明し、歯髄を保護しながら、なるべく神経を抜かずに保存することをお勧めしています。神経を残して処置を進め、万一、後で具合が悪くなっても、それから神経を取り除けば済むことです。

神経を残す努力をすることにより、結果的に治療回数が増える可能性はあるのですが、長い人生を共に歩む歯です。なるべく「歯が余生に入る時期を先送りする」ことが、QOL(生活の質)を考えた場合、メリットが大きいと思うのですが、如何でしょうか。

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