医者が考える治療の成功と患者の満足度について考える (医者の言い分・患者の言い分)

病気が癒え、治療が完了すると、よく、治療がうまくいった、うまくいかなかったという話になります。しかしながら、ふと考えてみると治療の成功とは一体何なのか、考えさせられることがあります。
がんの手術であれば、がん組織をすべて取り除き、その後、転移も無く、5年の生存が果たせれば成功と言えるのでしょうが、成功の定義が難しい場合の方が圧倒的に多いように思います。

ある人が下肢の痛みで思い切って脊椎の手術を受けたところ、「手術は大成功と医者は言うけれど、足の感覚は元には戻らず期待外れだった」と嘆いておられました。
また、ある人は右足の痛みで脊椎の手術を受けたところ、右足の痛みは消失したが、これまで全く問題の無かった左足に痺れが出たそうです。
これも医者に言わせれば「右足の手術は大成功。左足の痺れはリハビリで治しましょう」とのことでしたが、1年以上経っても左足の状況は改善しないとのことでした。

上述の場合、「医学的には脊椎の問題は取り除かれたのだから治療は成功」、という[医者の言い分]と、「手術を受ければ身体は元通りになる」と期待していた[患者の言い分]とには乖離があり、医者が考えるほど、患者の治療に対する満足度は高くないように思われます。

翻って私の専門である歯科治療について考えて見ましょう。
まず補綴(ほてつ)治療です。補綴治療とは、インプラント・ブリッジ・入れ歯などで、失われた歯の一部あるいは全てを補う治療を指します。

インプラントの場合、自分の歯と同じように良く噛めるようになったが、以前より歯の根元に食べ物が挟まりやすくなった、ブリッジの場合、噛めるけれど、歯の掃除に時間がかかるようになった、入れ歯の場合、硬いものは食べられない、入れ歯の下に食物が入ってしまう、バネが見えて気になる、毎日外して掃除が面倒などのご不満が出ることが想定されます。
ただ、殆どの患者さんは、失った歯の代替物なので、全くご自分の歯と同じようにはいかないと、ある程度は納得して頂いているように感じます。

歯根破折保存治療の結果についてはかなり個人差があり、どの歯を治療したのかわからないくらい以前と同様に噛むことができる方もいらっしゃいますが、硬いものを噛むと違和感があり、全く元通りとはいかない方もいらっしゃいます、それでも、皆さん、歯を失わずに済んで良かったとおっしゃって下さいます。

こう考えると、歯科に限らず、医療全般において、100%、元の状態に戻すことは難しい場合の方が多いように思われますが、それではこれらの治療は不成功なのでしょうか。こういった性格の治療に於いては機能や形態の回復が100%でなかったとしても、患者さんに納得していただけるようであれば、医者側の勝手な言い分かもしれませんが、成功と考えて差し支えないのではないでしょうか。

医者が考えるところの治療の成功と、患者さんの満足度、その乖離をできるだけ少なくすることが医療としては望ましいのですが、現実にはなかなか難しい場合も多いと思います。
医者から想定できる問題[医者の言い分]については、治療前にできるだけ患者さんにお伝えすることで、患者さんからの納得も得られやすくなるように思います。

嬉しい誤算

東京オリンピック開催まであと1か月をきり、「感染拡大リスク低減のため、中止ができないならせめて無観客を」、と提言する専門家の意見はスルーされ、有観客での開催となるようです。

IOCのバッハ会長が以前、日本人の真面目な国民性に触れ、「日本人だったらオリンピックが開催できる」、という精神論的な発言をされましたが、このような発言を聞くと、私はどうしても後から考えれば無謀であった太平洋戦争を思い浮かべてしまいます。

日米開戦前、軍事力を分析した日本軍中枢部は、アメリカに勝てないことは既に分かっていたと言われていますが、それでも戦争に突入してしまいます。どうしても戦争を回避できない理由があったのでしょうが、今回のオリンピックもそのような状況なのかもしれません。

「戦(いくさ)は時の運、どちらが勝つか、やってみないとわからない」と、戦国時代の武将風に考えれば、オリンピックもやってみたら案外、感染爆発も起らず、成功裏に終了する可能性も有るかとは思います。

ただ、医療に携わる者の一人としては、「やってみないとわからない」ことはできれば避けたいですし、やらなければならないなら、心配性過ぎるくらいの慎重さで、最悪の状況を想定してスタートすべきではないかと思います。

ここ数年、当院では歯根破折を主訴とされる患者さんが多いため、どうしてもコラムがその治療中心となってしまうのですが、一口に歯根破折と言っても、破折した歯の部位、期間、その割れ方、周囲の骨の状況、歯ぎしりや噛みしめの有無など、患者さんの状況は様々です。
好条件が揃えば良いのですが、そうでない場合、リスクを冒して治療をしても、良好な予後が期待できないと考えた場合、患者さんには率直に状況を説明し、他の治療の選択肢を考えて頂くこともあります。

ただ、なかには「治療費を倍払うから、どうしてもやってほしい」と仰せの方もいらっしゃいます。
最近、そのような難症例が2症例あり、患者さんの熱意に押され、(もちろん通常の診療費で)治療を行ったところ、なんと2症例とも私の想像を覆し経過が良く、1名は既に被せ物が入りました。
末期がんの患者さんが余命3カ月と宣告されたのに、もう1年以上存命している、というようなお話は良く聞きますが、その人が持っている治癒力・生命力というものは現在の科学の力では解明できないようです。

これらの症例は私にとっては嬉しい誤算でしたが、残念ながら逆の場合もあり、治療途中で止む無く抜歯に至ったケースもあります。現在の口腔外接着法の症例数は概ね800症例ですが、脱落あるいは抜歯となったケースは、私が把握する範囲で77症例あり、治療開始初期の2012年から2014年にかけての時期に多く認められます。

楽観論で始まる東京オリンピックでは、「嬉しい誤算」は期待薄でしょうから、せめて終了後の日本が、少しでも早く、コロナ以前の日本に戻ることを祈るばかりです。

何故、歯根破折保存治療の前に根管治療を勧めるのか?

破折した歯の治療を希望してお出でになる方の症状は様々です。
ある患者さんは歯の根元にニキビのような隆起ができたり、腫れたりしたため歯科医院にて診てもらったところ、破折しているから抜かないといけないと宣告されてお出でになります。これは比較的多いケースです。また、他院で破折の診断が下りていなくても、ご自身で破折を疑って来院される方もいらっしゃいます。

画像等ですぐに破折が確認出来れば良いのですが、破折しているかどうか、すぐに診断がつかないグレーゾーンの場合も多くあります。
このような場合、当院ではまず、第一選択肢として根管治療をお勧めしています。

歯の中心部には空洞があり、そこは「歯髄」と呼ばれる神経や血管を含む組織で満たされています。歯根の先端にある小さな穴、「根尖孔」を通じて顎の骨の中にある神経や血管と繋がっています。

この空間のうち、歯根部分の管状の空間を「根管」といいます。この空間で細菌が繁殖して炎症を起こすと、炎症が「根尖孔」から歯根外に及び、「根尖性歯周炎」という病気を発症します。この病気を治療するのが根管治療です。歯の内側を治療するため、「歯内療法」とも呼ばれます。

治療の方法ですが、ファイルという針金状の極細のヤスリや消毒薬を用いて根管内を無菌状態にしていきます。もしヒビが入っていなければこの治療法で治りますので、敢えて再植といった外科的な処置を受ける必要がありません。
ところが同じ感染でも、根管の中を顕微鏡等で拡大して見ていく際、ヒビが認められた場合は根管治療で治療することは不可能となります。破折で生じたスペースをファイルと薬液では無菌にできないからです。

当院では根管治療専門医と連携して治療を行っておりますが、歯根破折保存治療ご希望でいらした方でも、根管治療で治療可能な方も多くいらっしゃいます。逆にヒビがあり歯内療法では治療不可能ということで、根管治療専門医から当院に破折治療でご紹介頂く場合もあります。

歯根破折保存治療は抜歯しか選択肢の無かった歯を残すことができる治療法ではありますが、一旦抜いてすぐに戻すという外科処置を伴うため、治療によって即、抜歯となるリスクがあります。これが歯根破折保存治療の最大のデメリットです。

このリスクを避けるため、まずは身体にダメージの少ない根管治療で歯の内側からアプローチしていただき、根管治療では治療不可能であることが判明したうえで、歯の外側からアプローチする歯根破折保存治療をお受け頂くのが良いかと思います。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

歯根破折の予防について考える

日々の臨床に於いて、歯根破折の治療がその多くを占めるようになって参りました。
また、残念ながら、複数の歯に破折を起こす方もいらっしゃいます。そこで今回は歯根破折の予防について考えてみたいと思います。

歯根破折の原因には以下の2つの要因があります。
① 力を受ける「歯」の問題
② 歯に加わる「力」の問題

まずは一番目の「歯」の要因から見ていきましょう。
最も有効な対策は、できるだけ歯の神経を取らないということです。
失活歯 (神経を取り除いてある歯) は、生活歯 (神経が残っている歯) に較べ、圧倒的に破折するリスクが高くなります。やむを得ず、神経を取ってしまった場合、歯の一部の詰め物より、歯面全体を被せるクラウンで修復することで破折のリスクを軽減することができます。

また、クラウンで修復する場合、もともと神経のあったスペースにポスト、あるいはコアといわれる土台を入れますが、素材に金属を用いると、歯質との弾性係数の大きな隔たりにより、破折しやすくなると言われています。更に、ポストが短かかったり、歯質ときちんと接着していないと一段と破折しやすくなります。言い換えれば、適切な長さのグラスファイバー製のポストとプラスチックを用いたコアを、歯質としっかり接着させることにより、破折のリスクを軽減できます。

ただ、この土台部分は患者さんの目からは見えないため、きちんした治療が行われていないことが非常に多く見受けられます。これは建物を建築する際、建ててしまえば見えない土台には手抜き工事を行い、上物のみ見栄え良く建てることと同じです。
土台の治療は地味ではありますが、歯を支える屋台骨ですから、この治療には時間と費用をかけることの大切さを是非、皆様にはご理解頂きたいと思います。
また、クラウンと歯質との境から虫歯が生じると、これも破折の原因となるため、精度の高い修復物を入れていただくことが大切です。

次に二番目の歯に加わる「力」の要因です。
これをできるだけ小さくすれば破折は起こりにくくなります。
昼間、起きているときに歯が割れるほど大きな力で噛む人はまずいません。食事中に硬いものの混入等で割れてしまうのは事故であり、これを防ぐことは不可能です。

問題は夜間の就寝時に加わる「力」です。具体的には夜間就寝時の歯ぎしりあるいは噛みしめです。
歯ぎしりや噛みしめの原因は様々で、これらを取り除くことはなかなか難しいのですが、原因によっては噛み合わせの調整(咬合治療)によって可能となる場合もあります。

それ以外の場合は対症療法となり、その一つは噛みしめる筋肉の筋力を減弱するためのボツリヌス菌の注射投与ですが、もっと手軽にできる対策として「ナイトガード」の応用があります。
「ナイトガード」とは患者さんの歯の型どりを行い、作製した薄いマウスピースを上顎の歯にだけ就寝時に装着して頂くという方法です。

歯と歯の間に柔らかい樹脂が介在することにより、歯が削れたり、強大な力が一点に集中することを避けてくれます。装着してお休みになれる様であれば、非常に有効な手段となります。
これは健康保険で作製することができ、費用もそれほどかかりません。
費用対効果が大きいので、失活歯が多い方、歯ぎしり・噛みしめがある方、歯根破折を繰り返す方には是非、装着して頂くことをお勧め致します。

私の母校は慶応大学になるのでしょうか。

先日の日本経済新聞1面にも出ていたのでご存知の方もおられるかもしれませんが、私の母校である東京歯科大学が2023年4月をめどに慶應義塾大学と合併するにあたって、協議を開始したということでした。「東京歯科大学が慶應義塾大学に吸収合併される」という表現の方が正しいかもしれません。

東京歯科大学は130年の伝統を誇る日本最古の歯科大学であり、歯科医師国家試験の合格率1位を維持している歯科界では名門校ではありますが、歯科医師過剰が叫ばれるなか、単科大学としてそのブランドを維持することは経営的にも厳しく、また、慶応義塾大学にとっても新たなに歯学部を持つことができるわけですから、総合大学としての強みが増し、双方にとって、win-winの合併であると思います。

ただ、この合併はにわかに持ち上がった話ではなく、関係者の間ではずっと以前から時々、持ち上がっていたものと思われます。
もう60年以上昔のことですが、私の父が博士の学位を取る際、まだ、歯学博士という資格が日本に存在せず、父は主任教授の出身大学であった慶応義塾大学の医学部で学位を取ったため、医学博士ということになっています。そのころから慶応義塾大学と東京歯科大学はつながりがありましたし、現在、新型コロナ関連の報道番組で、しばしばコメントを求められている東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授も慶応義塾大学の出身であり、多くの慶應義塾大学出身の医師が東京歯科大学に在籍しておられます。

これまで私が専門治療のために母校の大学病院に紹介した患者さんで、治療が終わって当院に戻られると「東京医科歯科大学に行ってきました。」と仰る方がいらっしゃいましたが、御茶ノ水には東京医科歯科大学と日本大学歯学部、水道橋には東京歯科大学、飯田橋には日本歯科大学と、似たような名前の歯科大学が沢山あり、患者さんが混乱されるのも無理もありません。けれども今後は慶應義塾大学歯学部附属病院に紹介することになるでしょうからもう大丈夫ですね。

ただ、私を含め、東京歯科大学には一族揃って東京歯科大学卒という歯科医師が珍しくなく(かく申す私も祖父・父・弟、全て東京歯科大学卒です)、東京歯科大学同窓の母校愛は非常に強いと思います。その点も慶応義塾大学も校風が似ているのですが、ただ、母校の大学名が消えてしまうことに、一抹(以上の)の寂しさを覚えます。

コロナ禍を通して日本人の特性を考える

先日、「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を考える」という講演会が東京で開催されました。
5人の先生方のお話は全て大変有用でしたが、新型コロナウイルス感染症対策分化会長、尾身茂先生の講演内容が特に印象に残りました。

皆様ご存知の通り、新型コロナウイルス感染症の日本における感染者数は欧米と比較して低い水準にあり、これは医療関係者、保健所スタッフ、一般市民の協力の賜物とのことです。この「一般市民の協力」とは日本独特であり、日本人の特性に由来するように思います。

日本人は基本的にきれい好きです。また、コロナ禍以前よりマスク着用に抵抗がありません。よって必然的にウイルスに感染する機会が少なくなります。
また、真面目で従順な性格であり、非常事態宣言が発令されると、罰則が無くてもこれに従います。海外では罰則規定があるロックダウン状態でも従わない人が多く見られたようです。

また、日本人は突出することを好まない傾向にあり、周りの人がマスクを装着していると自分も装着します。装着しないでいると周囲から白い目で見られている様で不安になります。
挨拶は一般的にお辞儀で、握手、ハグあるいはキスといった接触を伴う行為を行いません。

上記のような日本人の特性は、これまではどちらかというとマイナス面として取り上げられることが多かったように思います。一昔前の外国映画で日本人がお互いに深々と頭を下げ、延々とお辞儀をする場面が滑稽に描かれていましたが、コロナ禍に於いては、これが俄然、強みとなっています。

ただ、普段は穏やかな日本人でも一旦、アルコールが入ると賑やかになり、居酒屋を外から眺めると、至近距離で会話をしている姿が多く見受けられます。尾身先生によりますと、クラスターを制御できれば感染の大爆発を防げるとのことでした。
北海道では東京に並ぶほど感染者数が大幅に増加していますが、これは対岸の火事ではなく、気温が下がり、換気がままならなくなれば、どの地方でも起こり得ることです。

講演でも指摘されていましたが、歯科医師は感染リスクの高い職業のひとつであると言われています。しかしながら今のところ、歯科医院内で患者さんから歯科医師へ感染した、あるいは歯科医院内で患者さんが感染したという事例は発生しておりません。
東京も寒さに向かい、厳しい状況ではありますが、私も真面目な日本人歯科医師の一人として、更に気を引き締め、“with CORONA”に対処して参ります。

吉田デンタルクリニック 
院長 吉田 浩一

「こちらにたどり着くまで5軒かかりました。」

先日、初診で歯根破折保存治療のご相談にいらした患者さんが、開口一番、「こちらで5軒目なんですが・・・」と仰いました。
この方は結局、歯根破折治療ではなく、根管治療から始めてみることになり、ご自身で専門医を探すとのことでした。
患者さんの「5軒目」という言葉を耳にした受付が会計時、「あちこち歯科医院さんに行かれているようで大変ですね。」とお声をかけたところ、「歯は命ですから。」ときっぱり話されていたそうです。

これも受付情報なのですが、以前、同じ歯根破折保存治療を受けてセラミックの被せ物までなさった患者さんが、治療終了時に特に受付が尋ねたわけではないそうですが、「こちらにたどり着くまで5軒かかりました。」と仰った方がおられたそうです。
歯のために歯科医院を5軒回られて当院にいらした方が、少なくとも2人おられることを知り、歯の大切さをわかって下さる方が確実に増えていることを改めて実感させられた次第です。

私が歯根破折保存治療を手掛けるようになってから、早いもので8年近くが経過しました。
症例数も700例を超え、今ではこの治療に関連する患者さんを診ない日は無いというほどになりました。この治療を手掛けるようになって良かったこと、それは他院で抜歯といわれた歯を残すことができ、それが歯科医療の基本中の基本である「歯を保存すること」と一致していることです。

歯科大学を卒業した当時、私自身が最も興味のあったインプラント義歯、ブリッジを専門とする歯科補綴(ほてつ)学講座に大学院生として入局し、「失われた歯を取り戻すこと」から始まった歯科医師人生ですが、35年を超えて、歯科医師としての原点に立ち戻ったようで感慨深いものがあります。

本治療法をご教示頂いた故眞坂信夫先生の御遺志を継ぎ、本治療を行っている先生方と現在も月1度のオンライン勉強会を継続して行っています。

歯を大切にされている患者さん方のお力になれることは歯科医師として大変有難いことであり、自分なりに勉強・工夫を重ね、助けられる歯を増やすことができるよう、微力ながら技術の向上に努めて参ります。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

「病院は戦場」

4月29日の日本経済新聞に「病院は戦場」という記事が掲載されました。その中の記載です。

“医療スタッフの疲労やストレスは限界を迎えているという。診療中に突然、涙ぐんだ若い医師。「家族のために離職したい」と漏らす看護師。深夜勤務を終えて帰宅しても気が張ってなかなか寝付けず、就寝は午前2時ごろ。4時間後には起床する。”

私はここまで読んで思わず涙がこぼれました。私は歯科医師ですが、強く感じるものがあります。私自身、診療時間外であっても、緊急性が高い場合、スタッフを帰して一人で治療にあたることがあります。小さい頃から歯科医師である父の背中を見て育ち、また、6年間の歯科医学教育を受ける中で、そういった魂が体の中に形成されているのだと思います。

コロナ禍のなか、医療従事者は危険な現場に赴いても特別に収入が増えるわけでもなく、表彰されるわけでもありません。それでも彼らは出ていきます。
何が彼らにそうさせているのでしょうか。この記事は「人命を救う医師であるという自負だけが、今の自分を支えている。」という医師のコメントで結ばれています。

医療従事者が命の危険を冒して治療に当たる中、その一方で自粛要請を無視してパチンコに出かける人、新鮮なものが食べたいと、毎日、3密のスーパーに買い物に出る人たちもおられます。
このような方たちが感染・発病した場合にも現場の医師は治療に当たります。しかも治療費は国家の方針に協力している国民から徴収された健康保険料や税金が使われているのです。
何か理不尽な思いがします。

当院では緊急事態宣言発令後、診療日数を週5日から4日に減らしながら診療を続けています。歯科疾患でお困りの方たちがいらっしゃるからです。感染の危険性を感じながら出勤し、感染対策を施しながら緊張感を持って業務に従事してくれるスタッフには心から感謝しています。

現時点では適切な防護策が採られている場合、歯科医療スタッフと患者さんとの間に濃厚接触はないと考えられています。滋賀県の歯科医院でクラスターが発生したことが報じられていますが、これはスタッフ間での感染であり、歯科医療とは関係がありません。当該医院の患者さんからも感染者は出ていません。

これに関しては、歯科は新型コロナウイルス感染症の最前線で治療にあたっている医療現場と異なる点と言えましょう。ただ、大前提に「適切な防護策が採られている」ということがあり、医療資材の供給が極端に逼迫している現在、どこまで続けられるか?という不安があります。

幸い感染の状況は好転しつつあるようですが、第二波が来る前に、潤沢な医療資材が供給されることを祈るばかりです。

Tired female doctor in scrubs, perhaps after an exhausting surgery

「コロナと世界」(『ニューノーマル』という認識)

現在、日本経済新聞一面に連載中の「コロナと世界」というコラムに大変、興味深い内容が掲載されていました。WHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子氏に対するインタビューを記事にしたものと思われます。

「新型コロナの教訓は何でしょうか。」という質問に対し、「21世紀に入って経済や社会活動は点から線に、線から面に、面から立体になっている。今までと物事のスピードが圧倒的に違い、感染症も瞬時に拡大する。新型コロナは異常事態ではなく、『ニューノーマル(新常態)』ととらえて対策を打たなければならない」と応えられていました。

これはどういうことでしょうか。
私の解釈ですが、今回のウイルス感染は起こるべくして起こったもので、それに対し、右往左往せず、必然の事象として受け止め、それに順応して生きていく必要があると感じています。
ウイルス感染拡大は当然、忌避すべきものではありますが、それを嘆いてばかりいても始まらない。正面から受け止め、対処していくことが大切だと思われます。

 感情に左右されず、科学的に正しい行動を取ること。
 専門家の打ち出した方策をはっきりと示し、トップに立つ者はこれをやり抜くリーダーシップを発揮すること。

今の日本には後者が欠けていると感じられます。現在の日本の法律には強制力が無いといいますが、自衛隊の海外派遣に対しては憲法の解釈を強引に曲げてまで遂行するのに、事ここに至っては強い意志がみられません。もちろん国家の強制力が戦争に繋がったことを心配する声があることは承知しています。そういったことに対する配慮も必要でしょう。

この新しい常態に望んでいくにあたり、私たち一人ひとりの意識改革が重要であると思われますが、その事を認識させていく強いリーダーの出現が待たれます。

そうは言ってはみたものの、わが身を振り返ると患者さんとスタッフの健康を守りつつ、かつ、歯科医療を行うという社会的責任を果たすため、何が最善なのか、自問を繰り返しています。

長生きしたいなら医者より歯医者?

2020年、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック開催の年となりました。
皆様、本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
年末年始の休診中、老後の生き方について特集されたある雑誌の「長生きしたいなら医者より歯医者」という記事が目に留まりました。
記事を書かれているのは歯周病治療を専門とされている歯科医師です。

歯を失う最大の要因が歯周病で、その割合は約40%を占めているという報告があります。次の要因が約30%を占める虫歯で、その次が歯根破折となっています。このなかで最も怖いのは歯周病で、それは以下の理由によります。

まず歯周病は虫歯と異なり、かなり進行するまで症状が自覚しにくい点があります。また、複数の歯が同時に罹患する傾向にあります。ブラッシング時の出血などで異常を確認できますが、殆どの方は見過ごしてしまうか、もしくは気が付いても大したことはないとの自己判断で放置されてしまいがちです。歯がぐらつくようになり、ようやく歯科医院を受診しても、その時には既に重度の歯周病で、そう遠くない将来、一度に複数の歯を失うことになります。

そして、歯を失うことと同時に怖いのは歯周病と全身疾患との関わりです。
歯周病と関係する全身疾患は現在、判っているだけで、糖代謝異常、心臓・脳血管障害、呼吸器系疾患などが挙げられます。何れも歯周病菌あるいは歯周病菌が産生する物質が血管を介して他の臓器に移動することにより引き起こされるのです。具体的な病気としては糖尿病、狭心症・心筋梗塞、アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎、骨粗鬆症、早産・低体重児、EDなどとなります。

一般的な健康診断や人間ドックでは血液検査、CT検査、レントゲン検査、超音波検査などで体の隅々まで調べるのに対し、歯科検診はオプションですら含まれていないのが現状です。従って歯科医院で定期的に口腔内を診てもらうことは、虫歯や歯周病から歯を守るだけでなく、全身疾患を予防するという重要な意味合いを持っていると言えます。
また、虫歯や歯周病のみならず、芸能人が患ったことで有名になった口腔ガンなどの軟組織疾患もあります。全身のPET検査で発見されることもありますが、歯科医院で口腔内を診てもらえば容易に発見できます。

当院は京橋というオフィス街にあるため、多くのビジネスパーソンが定期検診にお越しになりますが、お忙しい方ほど会計時に3ヶ月後、6ヶ月後と次回の検診のお約束を取って行かれるようです。口腔内を健康に保つことの重要性を理解されていらっしゃるのだと思います。

本コラムをお読み頂いている皆さん、医者より歯医者が大事かどうかは別として、健康寿命を延ばすことを希望されるのであれば、歯の健康を保つことは重要です。
歯科医院で定期的なケアを受けて頂くことをお勧めします。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一