「病院は戦場」

4月29日の日本経済新聞に「病院は戦場」という記事が掲載されました。その中の記載です。

“医療スタッフの疲労やストレスは限界を迎えているという。診療中に突然、涙ぐんだ若い医師。「家族のために離職したい」と漏らす看護師。深夜勤務を終えて帰宅しても気が張ってなかなか寝付けず、就寝は午前2時ごろ。4時間後には起床する。”

私はここまで読んで思わず涙がこぼれました。私は歯科医師ですが、強く感じるものがあります。私自身、診療時間外であっても、緊急性が高い場合、スタッフを帰して一人で治療にあたることがあります。小さい頃から歯科医師である父の背中を見て育ち、また、6年間の歯科医学教育を受ける中で、そういった魂が体の中に形成されているのだと思います。

コロナ禍のなか、医療従事者は危険な現場に赴いても特別に収入が増えるわけでもなく、表彰されるわけでもありません。それでも彼らは出ていきます。
何が彼らにそうさせているのでしょうか。この記事は「人命を救う医師であるという自負だけが、今の自分を支えている。」という医師のコメントで結ばれています。

医療従事者が命の危険を冒して治療に当たる中、その一方で自粛要請を無視してパチンコに出かける人、新鮮なものが食べたいと、毎日、3密のスーパーに買い物に出る人たちもおられます。
このような方たちが感染・発病した場合にも現場の医師は治療に当たります。しかも治療費は国家の方針に協力している国民から徴収された健康保険料や税金が使われているのです。
何か理不尽な思いがします。

当院では緊急事態宣言発令後、診療日数を週5日から4日に減らしながら診療を続けています。歯科疾患でお困りの方たちがいらっしゃるからです。感染の危険性を感じながら出勤し、感染対策を施しながら緊張感を持って業務に従事してくれるスタッフには心から感謝しています。

現時点では適切な防護策が採られている場合、歯科医療スタッフと患者さんとの間に濃厚接触はないと考えられています。滋賀県の歯科医院でクラスターが発生したことが報じられていますが、これはスタッフ間での感染であり、歯科医療とは関係がありません。当該医院の患者さんからも感染者は出ていません。

これに関しては、歯科は新型コロナウイルス感染症の最前線で治療にあたっている医療現場と異なる点と言えましょう。ただ、大前提に「適切な防護策が採られている」ということがあり、医療資材の供給が極端に逼迫している現在、どこまで続けられるか?という不安があります。

幸い感染の状況は好転しつつあるようですが、第二波が来る前に、潤沢な医療資材が供給されることを祈るばかりです。

Tired female doctor in scrubs, perhaps after an exhausting surgery

「コロナと世界」(『ニューノーマル』という認識)

現在、日本経済新聞一面に連載中の「コロナと世界」というコラムに大変、興味深い内容が掲載されていました。WHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子氏に対するインタビューを記事にしたものと思われます。

「新型コロナの教訓は何でしょうか。」という質問に対し、「21世紀に入って経済や社会活動は点から線に、線から面に、面から立体になっている。今までと物事のスピードが圧倒的に違い、感染症も瞬時に拡大する。新型コロナは異常事態ではなく、『ニューノーマル(新常態)』ととらえて対策を打たなければならない」と応えられていました。

これはどういうことでしょうか。
私の解釈ですが、今回のウイルス感染は起こるべくして起こったもので、それに対し、右往左往せず、必然の事象として受け止め、それに順応して生きていく必要があると感じています。
ウイルス感染拡大は当然、忌避すべきものではありますが、それを嘆いてばかりいても始まらない。正面から受け止め、対処していくことが大切だと思われます。

 感情に左右されず、科学的に正しい行動を取ること。
 専門家の打ち出した方策をはっきりと示し、トップに立つ者はこれをやり抜くリーダーシップを発揮すること。

今の日本には後者が欠けていると感じられます。現在の日本の法律には強制力が無いといいますが、自衛隊の海外派遣に対しては憲法の解釈を強引に曲げてまで遂行するのに、事ここに至っては強い意志がみられません。もちろん国家の強制力が戦争に繋がったことを心配する声があることは承知しています。そういったことに対する配慮も必要でしょう。

この新しい常態に望んでいくにあたり、私たち一人ひとりの意識改革が重要であると思われますが、その事を認識させていく強いリーダーの出現が待たれます。

そうは言ってはみたものの、わが身を振り返ると患者さんとスタッフの健康を守りつつ、かつ、歯科医療を行うという社会的責任を果たすため、何が最善なのか、自問を繰り返しています。

長生きしたいなら医者より歯医者?

2020年、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック開催の年となりました。
皆様、本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
年末年始の休診中、老後の生き方について特集されたある雑誌の「長生きしたいなら医者より歯医者」という記事が目に留まりました。
記事を書かれているのは歯周病治療を専門とされている歯科医師です。

歯を失う最大の要因が歯周病で、その割合は約40%を占めているという報告があります。次の要因が約30%を占める虫歯で、その次が歯根破折となっています。このなかで最も怖いのは歯周病で、それは以下の理由によります。

まず歯周病は虫歯と異なり、かなり進行するまで症状が自覚しにくい点があります。また、複数の歯が同時に罹患する傾向にあります。ブラッシング時の出血などで異常を確認できますが、殆どの方は見過ごしてしまうか、もしくは気が付いても大したことはないとの自己判断で放置されてしまいがちです。歯がぐらつくようになり、ようやく歯科医院を受診しても、その時には既に重度の歯周病で、そう遠くない将来、一度に複数の歯を失うことになります。

そして、歯を失うことと同時に怖いのは歯周病と全身疾患との関わりです。
歯周病と関係する全身疾患は現在、判っているだけで、糖代謝異常、心臓・脳血管障害、呼吸器系疾患などが挙げられます。何れも歯周病菌あるいは歯周病菌が産生する物質が血管を介して他の臓器に移動することにより引き起こされるのです。具体的な病気としては糖尿病、狭心症・心筋梗塞、アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎、骨粗鬆症、早産・低体重児、EDなどとなります。

一般的な健康診断や人間ドックでは血液検査、CT検査、レントゲン検査、超音波検査などで体の隅々まで調べるのに対し、歯科検診はオプションですら含まれていないのが現状です。従って歯科医院で定期的に口腔内を診てもらうことは、虫歯や歯周病から歯を守るだけでなく、全身疾患を予防するという重要な意味合いを持っていると言えます。
また、虫歯や歯周病のみならず、芸能人が患ったことで有名になった口腔ガンなどの軟組織疾患もあります。全身のPET検査で発見されることもありますが、歯科医院で口腔内を診てもらえば容易に発見できます。

当院は京橋というオフィス街にあるため、多くのビジネスパーソンが定期検診にお越しになりますが、お忙しい方ほど会計時に3ヶ月後、6ヶ月後と次回の検診のお約束を取って行かれるようです。口腔内を健康に保つことの重要性を理解されていらっしゃるのだと思います。

本コラムをお読み頂いている皆さん、医者より歯医者が大事かどうかは別として、健康寿命を延ばすことを希望されるのであれば、歯の健康を保つことは重要です。
歯科医院で定期的なケアを受けて頂くことをお勧めします。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

天野篤先生の教え

先日、私が所属しているインプラントに関する勉強会、Club22(22はインプラントの素材であるチタンの原子番号)の勉強会が開催されました。勉強会ではいつもどなたか外来の講師をお招きし、特別講演をしていただくのが恒例となっています。今回の講師は上皇陛下の心臓手術を担当されたことで有名な順天堂大学教授の天野篤先生でした。

以前、私は天野先生の著書を拝読したことがあり、講演の内容は既に知っていることも多く、スムーズに頭の中に入ってきました。医師としての考え方やキャリアの積み上げ方など、これからの私にとって進むべき道を考えさせられる内容が多かったのですが、その中で特に最近、私自身が考えていることと合致するお話があり、非常に共感を覚えました。

それは、「同じ結果が出せるなら、仕事はスピーディーな方が良い」ということです。

治療時間が短縮されることにより、患者さんの身体的な負担も軽くなりますし、限られた診療時間内に、より多くの患者さんを治療できるようになります。奇しくも先日、「先生は手が早いですね!」との患者さんのコメントを受付がブログで書いておりました。

以前の私は、各患者さんに十分(過ぎる)時間をとり、ゆったりと仕事をしていました。その方が良い仕事ができると考えていたからです。ところが、最近は歯根破折保存治療を希望される患者さんが増え、患者さんにとっては、抜歯か否かの瀬戸際ですので、少しでも早く診てほしいとキャンセル待ちをされているような状況です。歯科医師1名体制の当院の許容を超える状態となり、これではダメだと考えるようになりました。

「患者さんのご希望に沿うためにはどうしたらよいか?」、自分自身に喝を入れて意識を変え、術式も工夫し、以前の3分の2の時間で処置を行うことができるようになりました。
このようにお話すると、ブログの患者さんのお言葉ではありませんが、手抜きでは?とお感じになる方もおられるかもしれませんが、術式の変更前後で得られる結果には変わりはありません。

ただ、このシステムを遂行していくためには治療前の準備と治療後の整理が必須となります。準備は前日の診療終了後に始まり、翌日の全ての患者さんの治療内容を確認し、頭の中でシミュレーションを行い、効率的な手順を検討します。翌日の治療時に手や頭が働かないような無駄な時間を作らないように集中し、診療終了後は限られた時間内に記録できなかった内容をカルテに記載していきます。ここまでやって1日の診療が終了です。

世の中では働き方改革が叫ばれ、当院でもスタッフにはなるべく残業を減らし、自分の時間を確保するように指導しているのですが、わが身を顧みると、全く世の流れに逆行しているようです。
神の手を持つ天野先生だったらもっと効率的に仕事ができると思うのですが、私は凡人なので、同じようには参りませんね。それでも来年からは更なる効率化を図り、診療室での滞在時間を多少なりとも短縮していきたいものです。

大きな柱を失いました。

院長の吉田です。
大変悲しいお知らせがあります。
既に公にされているため、私からお伝えすることに支障はないと思われますが、歯根破折保存治療の開発者である眞坂信夫先生が先月初旬、逝去されました。
以前から体調が思わしくないことは伺っておりましたが、7月の定例のWEB会議ではお元気に発言されておられたため、突然の訃報に絶句しました。

以前のコラムでも紹介させて頂きましたが、眞坂先生は私の歯科医師人生における4人の師のうちの1人です。
4人の師のうち、関根弘先生には歯科治療・研究への姿勢とその取り組み方を、小宮山彌太郎先生には欠損補綴の切り札であるインプラント療法とそれに取り組む歯科医師の姿勢を、アメリカのテル・ハラダ先生には、歯の最も大切な機能である噛み合わせの基本と開業医のあるべき姿を教わりました。

最後の眞坂信夫先生には、通常なら抜歯適用となる破折歯を抜かずに残す技術とその価値を教えて頂きました。歯根破折は虫歯、歯周病に次ぐ3番目の抜歯理由ですが、眞坂先生はこれを抜かずに残す方法を開発し、治療法の普及のため講習会等を開き、他の歯科医師に惜しみなく伝達してこられました。

歯科医師向けのみならず、一般の患者さんにも本療法を伝える努力をされて、PDM21(Professional Dental Management 21th Century)という組織を作り、前述のWEB会議も、この治療法を導入している歯科医師が、月に一度、症例報告等を行い、会員の知識の共有・レベルアップに大きな役割を果たしてこられました。

一度は抜歯を宣告された患者さんにとって、本療法と出会い、抜かずに歯を残すことが出来た喜びは大きく、口々に私に感謝の言葉をおっしゃるのですが、これは私ではなく、本療法をご指導頂いた眞坂先生への感謝に他なりません。

大きな柱を失った歯根破折歯保存治療ですが、眞坂先生のご冥福をお祈りするとともに、先生の御遺志を受け継ぎ、直弟子である私たちが本療法を継続し、割れた歯は、はじめから抜歯→インプラントと決めつけず、残せる歯は残せるような治療を(思えば当たり前の話ですが・・・)広めていかねばと思っております。

合掌

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

人間の体って凄い!

私が歯根破折歯保存治療を始めてから6年以上が経過し、症例数は500を超えました。

この間、私の技術も向上し、更にいろいろな工夫も凝らし、術式も改善して参りました。
それに伴い、助けることのできる歯も増えてきました。

治療後、抜歯を免れた患者さんはとてもお喜びになり、私の治療に対し、お褒めの言葉を頂くこともあります。しかしながら私が行っていることは他の医療行為と同様に、治癒(ちゆ)の手助けをしているに過ぎません。私が治しているのではなく、生体が自分で治っていくのです。

少し難しくなりますが、以下、説明させていただきます。

生体は体の中に非自己〔免疫学上、免疫系が自己と認識しない、生体内外の物質のこと〕
があると、それを異物として体外に出そうとします。
歯根が破折すると、その部分に感染を来します。生体はそれを非自己と認識し、肉芽(にくげ)組織で取り囲み、健全な組織から隔離します。私たちから見ると、歯根が破折すると腫れて膿が出るようになり、やがてグラグラしてくる状態です。

次に肉芽組織で取り囲まれた破折した歯根はやがて生体の外に押し出されます。それは私たちから見ると歯が抜け落ちる状態です。

歯根破折保存治療は歯根がこの肉芽組織で取り囲まれた状態で行われます。いったん抜歯して、肉芽組織を綺麗に取り去り、感染歯質を取り除き、破折部分を生体為害性のない接着剤で補修して戻してあげます。
すると生体はこれを自己と認識し、肉芽組織で取り囲むことなく、歯根膜組織および骨組織が再生し、健常な状態に戻っていくのです。

治療前のレントゲン写真で見ると歯根周りの骨がかなり失われていて、これは再植保存治療をしても助けられないかな?と思われる症例でもかなりの割合で助かるのです。
もちろんそれまでに失われた歯槽骨等はすぐには再生しませんので、完全に近い状態に戻るにはある程度の時間はかかりますが、時間の経過とともに戻っていきます。

この現象を簡単に言ってしまえば、生体は悪いものを取り除いてあげれば、自己治癒能力により、回復していくということです。人間の体って凄いなぁと、改めて驚かされます。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

microbe and red blood cells

AIに負けるな!歯科技工士 

院長の吉田です。
今、AI(人工知能)の発達により、将来、消え去るであろう職業が挙げられています。

歯科医師はその性格上、今のところ、対象外と言えましょう。ただ、修復物を作製する歯科技工士に関しては、いくつかの問題が浮上しています。

一つ目の問題は人手不足です。医療費の上昇が抑えられ、診療報酬が伸び悩むなか、歯科医師はコスト削減のために、修復物を作製する技工料を抑えようとします。そのため歯科技工士の収入も下がらざるを得ません。

また、技工料の安い中国等への依頼も考えられます。これでは国内で優秀な歯科技工士は育ちません。以前のコラムでも書かせていただきましたが、当院でお願いしている技工所でも、若手はすぐ辞めてしまうと嘆いておられます。

もうひとつはデジタル技術の導入です。
現在、歯科医師は歯を削ったあと、その形態を歯科技工士に伝えるために、「印象採得」という型どりをし、そこに石膏等の模型材を注入して口腔にを再現するのが一般的です。ところが、現在では写真を撮るだけで、そのデータを技工所に送り、CAD/CAMで作製し、完成したものが歯科医院に送付されてくるという世界になりつつあります。

もちろん、このデータから修復物を作成する過程に歯科技工士は関与しますが、ほとんどの部分を機械がこなし、あとの部分は誰でもできるようなシステムです。この過程に歯科技工士の「巧み」が入る余地はありません。現在の段階ではこのシステムには限界があり、従来の型取りが一般的です。

しかしながら将来、このシステムに完全に置き換わる可能性は高いです。そうなると熟練歯科技工士はほとんど必要なくなってしまいます。また、歯科医師の「印象採得」の技術も不要になり、どの歯科医師でも正確な「写真」が取れればOKというようになります。

本当に歯科技工士はいなくなってしまうのでしょうか。職人技は不要になるのでしょうか。世の中の物事の進みが非常に早く、私にも分かりません。しかしながら、この数年で大きく変わることは無いと思います。歯科技工士のみなさん、目標を持って頑張りましょう。
歯科技工士は私達 歯科医師にとって大切なパートナーなのですから。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

この歯と100年生きていく

リンダ・グラットン 著「ライフ・シフト」という本に記されているように、これからの若い人は人生が100年になっていくようです。

戦国時代の武将、織田信長の言葉に「人間50年」という文言があります。
本来は平均寿命のことを指しているのではありませんが、1600年代の人たちに較べ、2000年代の人は倍も生きていくことになりました。従いまして、臓器を含めた体もこれまでの2倍、使っていくことが要求されます。歯に関しても同じです。

「8020(ハチマルニマル)運動」というものをご存知でしょうか。
満80歳で20本以上の歯を残そうとするのが主目的で、運動が開始された1989年の達成率は15%程度でしたが、近年では50%に達したとされています。
現在、日本には100歳以上の方がおよそ7万人いらっしゃるようです。この方々に何本の歯が残っているかは不明ですが、「10020(ヒャクマルニマル)」の達成率はかなり低いものと思われます。歯には定年制度というものがないので、これまで以上に長く働くことが要求される歯も大変なことです。

では100歳まで長く歯を残していくにはどうしたらよいのでしょうか。

月並みなお答えになりますが、毎日の正しいセルフケアと、定期的なプロフェッショナルケアが大切です。定期的に歯科医院に通うことにより、歯周病や虫歯になってしまった場合でも、早期発見が可能ですし、ご自身の歯に対する意識の高まりが期待されます。

歯を失う理由としては ①歯周病、②虫歯、③歯根破折の順となっています。
当院では虫歯のチェックには目視に加えレーザーを使用しており、客観的な数値で患者さんに虫歯の状況をお伝えするのですが、「まだ痛くないから・・・」と、治療されない患者さんもいらっしゃいます。
ただ、痛みが出たら神経まで感染が及んでいる可能性が高く、神経を取る治療が必要になります。神経を取ることにより歯根破折を起こしやすくなり、歯の喪失への大きな前進です。

また、虫歯は一旦治療すれば、もう虫歯にならないとお考えの方もおられるのですが、それは大きな誤解です。修復物と歯の隙間から虫歯菌が侵入し、二次虫歯になる可能性は充分にあります。この二次虫歯になる時期をいかに先延ばしにするか?が、歯を長く残すためには、とても重要なのです。

二次虫歯を防ぐためには、詰め物・被せ物の精密な型採りを行い、丁寧な修復治療をしてもらうことに尽きますが、当然、時間と費用がかかります。しかしここで投資しておかないと、その先の治療には更に多くの時間と費用が要求され、それが受け容れられない場合には歯の喪失に向かってまっしぐらでで、とても100年は使えません。

如何にきちんとした治療を受け、再治療を先延ばししていくか?が長く使えるかどうかのポイントになります。

私はこの点をコンサルテーション時に患者さんに力説しているのですが、「前歯は綺麗なのがいいので白いセラミックにするが♪、奥歯は見えないから(精度の低い)銀歯で大丈夫♪」という方が多いのが現実です。これでは「奥歯は早く失っても構わない。」と仰っているのと同義です。
私の説明が不十分なのかもしれませんが、一度抜けたら二度と生えてこないご自分の歯を、どれだけ長く使う必要があるのか?という自覚が、残念ながらあまり認識されていないことを痛感します。

歯が無くなってしまえば、入れ歯やインプラントで修復可能ですが、入れ歯はその使い勝手からQOL(生活の質)が下がることが懸念されます。またインプラント治療は外科手術を伴いますので、誰でも簡単に受けられる治療ではありません。
また、受けられたとしても、高額な費用とエネルギーが要求されます。(抜歯を宣告されたが、抜歯したくないとお考えの方は、歯根破折保存ページを参考になさってください。)

皆さん、頑張ってご自分の歯を100年使いましょう。しかし、かく申す私も昨年、1本の歯を失ってしまいました。残った27本をあと40年使っていかなければ!です。

エルメスとインプラントに共通するもの

今年も残すところあと1日となりました。
診療は27日で終了しているのですが、診療が終わってやっとコラムを書く時間ができました。
大した文章ではないのですが、今年最後の私のコラムにお付き合いください。

少し前のことになりますが、私が所属するClub22 というインプラントに関する勉強会が開催する12月の特別講演の講師として齋藤峰明氏をお招きしました。

齋藤氏はエルメス本社の副社長を務められた方で、現在はシーナリーインターナショナルの代表に就任されていらっしゃいます。氏は高校卒業後、渡仏しソルボンヌ大学を卒業、三越、エルメスと勤務された経歴の持ち主です。

今回の講演では氏の高校時代から渡仏後、三越勤務時代、エルメス勤務時代の事、またエルメスの理念や他の有名ブランドとの違いについて2時間30分をかけてお話しいただきました。

エルメスは1837年にパリで馬具工房としてスタートしましたが、自動車時代の到来を予見し、カバン等の皮革製品の製作へと軸足を移して成功したとのことでした。その製品作りにかける精神はインプラント治療にも通ずるものがあり、会員一同、大変勉強になりました。

例えば、カバンの革を縫い合わせている糸が1本切れても裏側からも同様に縫ってあるため、糸がほつれてカバンの革がめくれたり、剥がれたりすることは無いのだそうです。ですから、すぐに修理しなくとも、旅行中あるいは外出中に実用上、問題が生じないわけです。

インプラント治療でも同様です。普段は問題がなく、気づくことがなくとも、そういった配慮が為されているインプラント治療であれば、何かトラブルが生じても、大きな問題を起こすことなく、長期間、対処していく事が可能です。

私も治療にあたり、「痛くない」、「早い」といった患者さんわかりやすい処置だけでなく、目立たなくとも、常日頃心がけている確実な処置がやはり大切なのだと再認識させられました。患者さんには「何でこんなに時間がかかるの?」とお叱りを受けることもありますが、(歯科職人としては)ここは譲れないところです。

年末に思いがけず、良いお話を伺うことができました。

「根管治療と歯根破折保存治療は違うのですか?」

「根管治療と歯根破折保存治療は違うのですか?」
先日、当院の患者さんから頂いた質問です。

「根管治療」(こんかんちりょう)は「歯内療法」(しないりょうほう)とも言いますが、歯の内部の神経が通っている根管というスペースを綺麗にしていく治療です。

このスペースに細菌感染が起こると歯の根の先端部分に病巣(骨が溶け膿が溜まった状態)が生じます。やがて膿は骨の中を進み、歯肉にニキビのような膿の出口が発現する場合もあります。通常、歯科医院で行われている、いわゆる根の治療がこの根管治療で、ほとんどの歯科医師が行っています。もちろんこの治療を専門に行う専門医もいます。

ただ、歯根が割れて分離したり、ヒビが入ってしまうと、この根管治療で治すことは不可能であり、治療の選択肢としては抜歯となります。

しかしながら現在では、出来るだけご自身の歯を残したい患者さんの希望に沿うよう、歯を抜かずに治す治療法が開発されてきました。これが歯根破折保存治療、あるいは歯根破折歯の治療と呼ばれているものです。この治療法を取り入れている医院は現在のところ限られておりますが、当院では6年ほど前から行っております。

この治療法には大きく分けて2種類があります。
ひとつは根管内部を拡大鏡あるいは顕微鏡で見て、ヒビの入っている部分を修復したり、あるいは歯肉を開いて骨面を露出させ、そこから歯根面のヒビを修復していく口腔内接着法です。
もうひとつの方法は歯を一度抜き、口腔外で修復し、すぐに元に戻す再植法です。どちらを行うかは口腔内の状況と術者の考え方によると思います。
当院では後者を選択する場合が多くなっています。その理由はいくつかありますが、まず、口腔外で処置を行うため、破折箇所を観察しながら、汚染部や虫歯に侵されている部分を十分に取り除くことが可能です。また、乾燥状態で処置できるため、接着が良好です。さらに、一旦、抜歯しますので、抜歯窩(歯根があった部分に相当する骨の陥没部分)に残っている悪い組織を徹底的に除去することができます。
特に破折の程度がヒビではなく、完全に分離している場合には再植法でないと対応できません。再度、歯が生着しない可能性もありますが、これまでのところほとんどありません。
ただ、一度生着したものの、その後の経過が思わしくない場合もあり、当院での成功率は概ね90%です。

最初の質問に戻りますが、歯根が破折しておらず、単に根管が感染している場合に行う治療が根管治療、歯根が破折して感染している場合に行う治療が歯根破折保存治療ということになります。