「やっぱり自分で探さないとダメですね。」

今週は歯根破折治療が終わり、被せ物まで当院でなさって治療が全て終了した方が多数おられました。

患者さんがお帰りになる際、「(患者さんも先生も)頑張って残した歯ですから、もうあんまり酷使しないで、大切にして上げてくださいね」とお伝えするのですが、何だか可愛いわが子を旅に出すような心持ちになります。

その中のお一人が、「やっぱり自分で探さなきゃダメですね。地元の歯医者の言うとおりにしていたら、今頃、この歯は無かったですよ。」としみじみと仰いました。

先生によって診療方針は様々だと思うので、どれが正しいかはわかりませんが、かかりつけ医であっても、その先生の方針にもし納得がいかなければ、自分で勉強して他の先生を
探すのも一つの選択肢かもしれません。

当院に歯根破折治療のご相談にいらっしゃる方は、かかりつけ医では抜歯してインプラントしかないと言われたが、抜きたくないので何とか残せないものか?とインターネットで検索し、当院にたどり着いたとおっしゃいます。

いつも思うのですが、「本当は抜きたくないけれど、歯医者にそう言われたんなら、仕方ないな・・・」と諦めて抜いてしまった方のほうがずっと多いのではないでしょうか。
積極的に自分で調べるか否かで、歯が残るか、残らないかの分かれ道になるのかもしれません。(ちょっと大げさですね・・・)

良くも悪しくもネットで簡単に情報が入手できる時代です。
歯に限らず、自分の体のことは自分で納得して治療を受けたいではないですか!
ご自身の体を大切になさって、できるだけ自分の歯を残したい!という患者さん方の熱意には本当に頭が下がります。
患者さんに教えられることが多いな、としみじみ思いますし、患者さんに「ありがとうございました」と最後におっしゃっていただける受付職は本当に役得ですね!

吉田デンタルクリニック
受付 菊地

天野篤先生の教え

先日、私が所属しているインプラントに関する勉強会、Club22(22はインプラントの素材であるチタンの原子番号)の勉強会が開催されました。勉強会ではいつもどなたか外来の講師をお招きし、特別講演をしていただくのが恒例となっています。今回の講師は上皇陛下の心臓手術を担当されたことで有名な順天堂大学教授の天野篤先生でした。

以前、私は天野先生の著書を拝読したことがあり、講演の内容は既に知っていることも多く、スムーズに頭の中に入ってきました。医師としての考え方やキャリアの積み上げ方など、これからの私にとって進むべき道を考えさせられる内容が多かったのですが、その中で特に最近、私自身が考えていることと合致するお話があり、非常に共感を覚えました。

それは、「同じ結果が出せるなら、仕事はスピーディーな方が良い」ということです。

治療時間が短縮されることにより、患者さんの身体的な負担も軽くなりますし、限られた診療時間内に、より多くの患者さんを治療できるようになります。奇しくも先日、「先生は手が早いですね!」との患者さんのコメントを受付がブログで書いておりました。

以前の私は、各患者さんに十分(過ぎる)時間をとり、ゆったりと仕事をしていました。その方が良い仕事ができると考えていたからです。ところが、最近は歯根破折保存治療を希望される患者さんが増え、患者さんにとっては、抜歯か否かの瀬戸際ですので、少しでも早く診てほしいとキャンセル待ちをされているような状況です。歯科医師1名体制の当院の許容を超える状態となり、これではダメだと考えるようになりました。

「患者さんのご希望に沿うためにはどうしたらよいか?」、自分自身に喝を入れて意識を変え、術式も工夫し、以前の3分の2の時間で処置を行うことができるようになりました。
このようにお話すると、ブログの患者さんのお言葉ではありませんが、手抜きでは?とお感じになる方もおられるかもしれませんが、術式の変更前後で得られる結果には変わりはありません。

ただ、このシステムを遂行していくためには治療前の準備と治療後の整理が必須となります。準備は前日の診療終了後に始まり、翌日の全ての患者さんの治療内容を確認し、頭の中でシミュレーションを行い、効率的な手順を検討します。翌日の治療時に手や頭が働かないような無駄な時間を作らないように集中し、診療終了後は限られた時間内に記録できなかった内容をカルテに記載していきます。ここまでやって1日の診療が終了です。

世の中では働き方改革が叫ばれ、当院でもスタッフにはなるべく残業を減らし、自分の時間を確保するように指導しているのですが、わが身を顧みると、全く世の流れに逆行しているようです。
神の手を持つ天野先生だったらもっと効率的に仕事ができると思うのですが、私は凡人なので、同じようには参りませんね。それでも来年からは更なる効率化を図り、診療室での滞在時間を多少なりとも短縮していきたいものです。

「残しても仕方が無いような歯?」

歯根破折保存治療が終了し、無事、歯がくっついてくれたことを確認し、最終的な被せ物が終了された患者さんのお話です。

この方は遠方からの通院となるため、治療開始前にまず当院のお問い合わせフォームで院長先生に問い合わせをなさったそうです。
近隣の歯科医院さんでは「残しても仕方が無いような歯!」と言われてショックを受けたそうですが、院長先生から残せる可能性があるという返信があり、思い切って新幹線でいらしたとのこと。

この方の場合、ご両親様が殆ど歯が残っておらず、義歯をお使いで、ご自身の歯の有難味を良くお分かりのようで、「残せる可能性があるなら行ってみれば?」と後押しされて当院にお越しになりました。

歯根破折治療のみでしたら3回で終了しますので患者さんとそれほどお話しする機会が無いのですが、被せ物までなさる方は、数か月通院いただくことになります。
自然とお話しする機会も増え、無事、治療が終了したときには、患者さんはもちろんのこと、私自身も同じ治療を受けているため、職務を忘れ、自分のことのようにとても嬉しくなってしまいます。

「残しても仕方が無いような歯!」と言われてしまった歯を、歯として機能する状態で残せたことは、遠方から通院して下さった患者さんのことを思うと、本当に本当に良かったなと思います。

吉田デンタルクリニック
受付 菊地

大きな柱を失いました。

院長の吉田です。
大変悲しいお知らせがあります。
既に公にされているため、私からお伝えすることに支障はないと思われますが、歯根破折保存治療の開発者である眞坂信夫先生が先月初旬、逝去されました。
以前から体調が思わしくないことは伺っておりましたが、7月の定例のWEB会議ではお元気に発言されておられたため、突然の訃報に絶句しました。

以前のコラムでも紹介させて頂きましたが、眞坂先生は私の歯科医師人生における4人の師のうちの1人です。
4人の師のうち、関根弘先生には歯科治療・研究への姿勢とその取り組み方を、小宮山彌太郎先生には欠損補綴の切り札であるインプラント療法とそれに取り組む歯科医師の姿勢を、アメリカのテル・ハラダ先生には、歯の最も大切な機能である噛み合わせの基本と開業医のあるべき姿を教わりました。

最後の眞坂信夫先生には、通常なら抜歯適用となる破折歯を抜かずに残す技術とその価値を教えて頂きました。歯根破折は虫歯、歯周病に次ぐ3番目の抜歯理由ですが、眞坂先生はこれを抜かずに残す方法を開発し、治療法の普及のため講習会等を開き、他の歯科医師に惜しみなく伝達してこられました。

歯科医師向けのみならず、一般の患者さんにも本療法を伝える努力をされて、PDM21(Professional Dental Management 21th Century)という組織を作り、前述のWEB会議も、この治療法を導入している歯科医師が、月に一度、症例報告等を行い、会員の知識の共有・レベルアップに大きな役割を果たしてこられました。

一度は抜歯を宣告された患者さんにとって、本療法と出会い、抜かずに歯を残すことが出来た喜びは大きく、口々に私に感謝の言葉をおっしゃるのですが、これは私ではなく、本療法をご指導頂いた眞坂先生への感謝に他なりません。

大きな柱を失った歯根破折歯保存治療ですが、眞坂先生のご冥福をお祈りするとともに、先生の御遺志を受け継ぎ、直弟子である私たちが本療法を継続し、割れた歯は、はじめから抜歯→インプラントと決めつけず、残せる歯は残せるような治療を(思えば当たり前の話ですが・・・)広めていかねばと思っております。

合掌

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

人間の体って凄い!

私が歯根破折歯保存治療を始めてから6年以上が経過し、症例数は500を超えました。

この間、私の技術も向上し、更にいろいろな工夫も凝らし、術式も改善して参りました。
それに伴い、助けることのできる歯も増えてきました。

治療後、抜歯を免れた患者さんはとてもお喜びになり、私の治療に対し、お褒めの言葉を頂くこともあります。しかしながら私が行っていることは他の医療行為と同様に、治癒(ちゆ)の手助けをしているに過ぎません。私が治しているのではなく、生体が自分で治っていくのです。

少し難しくなりますが、以下、説明させていただきます。

生体は体の中に非自己〔免疫学上、免疫系が自己と認識しない、生体内外の物質のこと〕
があると、それを異物として体外に出そうとします。
歯根が破折すると、その部分に感染を来します。生体はそれを非自己と認識し、肉芽(にくげ)組織で取り囲み、健全な組織から隔離します。私たちから見ると、歯根が破折すると腫れて膿が出るようになり、やがてグラグラしてくる状態です。

次に肉芽組織で取り囲まれた破折した歯根はやがて生体の外に押し出されます。それは私たちから見ると歯が抜け落ちる状態です。

歯根破折保存治療は歯根がこの肉芽組織で取り囲まれた状態で行われます。いったん抜歯して、肉芽組織を綺麗に取り去り、感染歯質を取り除き、破折部分を生体為害性のない接着剤で補修して戻してあげます。
すると生体はこれを自己と認識し、肉芽組織で取り囲むことなく、歯根膜組織および骨組織が再生し、健常な状態に戻っていくのです。

治療前のレントゲン写真で見ると歯根周りの骨がかなり失われていて、これは再植保存治療をしても助けられないかな?と思われる症例でもかなりの割合で助かるのです。
もちろんそれまでに失われた歯槽骨等はすぐには再生しませんので、完全に近い状態に戻るにはある程度の時間はかかりますが、時間の経過とともに戻っていきます。

この現象を簡単に言ってしまえば、生体は悪いものを取り除いてあげれば、自己治癒能力により、回復していくということです。人間の体って凄いなぁと、改めて驚かされます。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

microbe and red blood cells

ブラキシズムとTCH

こんにちは、歯科衛生士の児嶋です。
4月14日の日曜日、いつも材料や機材でお世話になっているK.O.デンタルのフェアーへ、
先輩歯科衛生士の青山さんと一緒に行って来ました。

会場の東京ビッグサイトのホール内では各メーカーからブース出展があり、様々な機材を試す事ができます。また、各種セミナーも用意され、私達歯科従事者にはとてもワクワクし、勉強になる催し事なんですよ。

当院では歯根破折のご相談をされる方が多いので、日々の診療で感じていましたが、
私の受講したセミナーでも、講師の先生が、近年歯根破折が増えていると仰っていました。

皆様の健康観やデンタルIQが向上し、虫歯や歯周病に患う歯が減少してきました。
その一方、かみしめ・くいしばりが原因の一つとなる、歯根破折や知覚過敏の症状がお口の中のトラブルとして増加しているのです。

この、かみしめ・食いしばりはブラキシズムと呼ばれ、3種類に分類されます。

1.グラウンディング
上下の歯をグリグリと擦り合わせる運動です。
睡眠時に多く、ギリギリと音を立てます。
皆さんが想像する歯ぎしりはこちらが主です。

2.クレンチング
上下の歯を強くかみしめる運動。
日中におきている状態で多くみられ、無意識に発現。
自覚、他覚症状がないため、こちらからお伝えするまで、気付いていない方が多いです。

3.タッピング
上下の歯をカチカチとかみあわせる運動。
こちらも起きている時にも起こります。

また、通常上下の歯は接触せずに、数ミリほど空いているのが正常な状態ですが、常に接触した状態が続き、歯や歯周組織に負担をかける事があります。
これをTCH(Tooth Contacting Habitの頭文字、上下歯列を無意識にくっつけている癖の事)と呼びます。
1日に上下の歯が接触して良い時間は約20分といわれています。
これは食事の時間も含めてです。短いと思いませんか?
今、上下の歯が接触している方、すぐに離して下さいね。

ブラキシズムやTCHは歯の破折や知覚過敏のリスクを高めます。他にも歯周病の進行、虫歯でもないのに詰め物が外れる、顎関節症等様々なトラブルを起こす要因になります。

当院では歯根破折保存治療やかみ合わせの治療、ナイトガードの作製を行なっております。
ご興味がありましたら、お気軽にお声かけ下さい。

歯科衛生士 児嶋

「あ、それは噛まないでください」

最近忙しくてブログをサボっている私ですが、特に歯根破折についてのブログが減っているなぁと感じています。何故かというと、歯根破折の治療が日々行われるようになり、特筆すべきことが減ってきたように思うのですが、今日は久しぶりにブログに書いて、是非、皆さんにお伝えしたい!と思うことがありました。

本日、破折治療を行った歯に被せ物をして、治療が終了した患者さんのお話です。
破折治療が終了する際、院長先生は必ず患者さんに「一度修復した歯なので、もうあまり硬いものは噛まないでください」と注意を促すのですが、患者さんは何が硬いか、よくわからないものなんですね。

以下、患者さんと院長先生の会話です。

患者さん「肉はいいですか?」
院長先生「肉は大丈夫です」(でもお肉によっては硬いのもありますよね・・・と菊地は思いました。)
患者さん「クルミはどうですか?」
院長先生「カラですか?(院長先生は冗談のつもり)
患者さん「そうです」(真顔で)
院長先生 「あ、それは噛まないでください」
患者さん「あ、そうですか・・・」

アシストについていた歯科衛生士の兒嶋さんもその会話にびっくりしたようですが、クルミの殻って、クルミ割りの器具があるほど固いものですよね。(クラシックバレーのクルミ割り人形ってくるみを割るための人形のことですものね。)

そんなに硬いものかじったら、健康な歯だって割れてしまうかもしれません。院長先生によると、奥歯でそんなに硬いものを噛んだら、関節も壊れるとおっしゃっていました。

私達は仕事柄、どれくらい硬いものを噛んだら歯に良くないか、何となくわかっているのですが、患者さんはやっぱりご存知無いのですね。

最近、先生が院長のコラムで書いておられますが、人生100年時代、永久歯は生え変わらないので、今ある歯をずっと使っていかねばならないのです。
皆様、硬いものをかじって歯を酷使すると、歯が割れちゃいますよ、

柔らかいものばかりじゃ食事はつまらないけれど、この歯をずーっと使って行かねばならないんだ、ということをちょこっとアタマの片隅に置いて頂き、歯をいたわっていただけると、私達はとても嬉しいです。♪

吉田デンタルクリニック
受付 菊地

この歯と100年生きていく

リンダ・グラットン 著「ライフ・シフト」という本に記されているように、これからの若い人は人生が100年になっていくようです。

戦国時代の武将、織田信長の言葉に「人間50年」という文言があります。
本来は平均寿命のことを指しているのではありませんが、1600年代の人たちに較べ、2000年代の人は倍も生きていくことになりました。従いまして、臓器を含めた体もこれまでの2倍、使っていくことが要求されます。歯に関しても同じです。

「8020(ハチマルニマル)運動」というものをご存知でしょうか。
満80歳で20本以上の歯を残そうとするのが主目的で、運動が開始された1989年の達成率は15%程度でしたが、近年では50%に達したとされています。
現在、日本には100歳以上の方がおよそ7万人いらっしゃるようです。この方々に何本の歯が残っているかは不明ですが、「10020(ヒャクマルニマル)」の達成率はかなり低いものと思われます。歯には定年制度というものがないので、これまで以上に長く働くことが要求される歯も大変なことです。

では100歳まで長く歯を残していくにはどうしたらよいのでしょうか。

月並みなお答えになりますが、毎日の正しいセルフケアと、定期的なプロフェッショナルケアが大切です。定期的に歯科医院に通うことにより、歯周病や虫歯になってしまった場合でも、早期発見が可能ですし、ご自身の歯に対する意識の高まりが期待されます。

歯を失う理由としては ①歯周病、②虫歯、③歯根破折の順となっています。
当院では虫歯のチェックには目視に加えレーザーを使用しており、客観的な数値で患者さんに虫歯の状況をお伝えするのですが、「まだ痛くないから・・・」と、治療されない患者さんもいらっしゃいます。
ただ、痛みが出たら神経まで感染が及んでいる可能性が高く、神経を取る治療が必要になります。神経を取ることにより歯根破折を起こしやすくなり、歯の喪失への大きな前進です。

また、虫歯は一旦治療すれば、もう虫歯にならないとお考えの方もおられるのですが、それは大きな誤解です。修復物と歯の隙間から虫歯菌が侵入し、二次虫歯になる可能性は充分にあります。この二次虫歯になる時期をいかに先延ばしにするか?が、歯を長く残すためには、とても重要なのです。

二次虫歯を防ぐためには、詰め物・被せ物の精密な型採りを行い、丁寧な修復治療をしてもらうことに尽きますが、当然、時間と費用がかかります。しかしここで投資しておかないと、その先の治療には更に多くの時間と費用が要求され、それが受け容れられない場合には歯の喪失に向かってまっしぐらでで、とても100年は使えません。

如何にきちんとした治療を受け、再治療を先延ばししていくか?が長く使えるかどうかのポイントになります。

私はこの点をコンサルテーション時に患者さんに力説しているのですが、「前歯は綺麗なのがいいので白いセラミックにするが♪、奥歯は見えないから(精度の低い)銀歯で大丈夫♪」という方が多いのが現実です。これでは「奥歯は早く失っても構わない。」と仰っているのと同義です。
私の説明が不十分なのかもしれませんが、一度抜けたら二度と生えてこないご自分の歯を、どれだけ長く使う必要があるのか?という自覚が、残念ながらあまり認識されていないことを痛感します。

歯が無くなってしまえば、入れ歯やインプラントで修復可能ですが、入れ歯はその使い勝手からQOL(生活の質)が下がることが懸念されます。またインプラント治療は外科手術を伴いますので、誰でも簡単に受けられる治療ではありません。
また、受けられたとしても、高額な費用とエネルギーが要求されます。(抜歯を宣告されたが、抜歯したくないとお考えの方は、歯根破折保存ページを参考になさってください。)

皆さん、頑張ってご自分の歯を100年使いましょう。しかし、かく申す私も昨年、1本の歯を失ってしまいました。残った27本をあと40年使っていかなければ!です。

「根管治療と歯根破折保存治療は違うのですか?」

「根管治療と歯根破折保存治療は違うのですか?」
先日、当院の患者さんから頂いた質問です。

「根管治療」(こんかんちりょう)は「歯内療法」(しないりょうほう)とも言いますが、歯の内部の神経が通っている根管というスペースを綺麗にしていく治療です。

このスペースに細菌感染が起こると歯の根の先端部分に病巣(骨が溶け膿が溜まった状態)が生じます。やがて膿は骨の中を進み、歯肉にニキビのような膿の出口が発現する場合もあります。通常、歯科医院で行われている、いわゆる根の治療がこの根管治療で、ほとんどの歯科医師が行っています。もちろんこの治療を専門に行う専門医もいます。

ただ、歯根が割れて分離したり、ヒビが入ってしまうと、この根管治療で治すことは不可能であり、治療の選択肢としては抜歯となります。

しかしながら現在では、出来るだけご自身の歯を残したい患者さんの希望に沿うよう、歯を抜かずに治す治療法が開発されてきました。これが歯根破折保存治療、あるいは歯根破折歯の治療と呼ばれているものです。この治療法を取り入れている医院は現在のところ限られておりますが、当院では6年ほど前から行っております。

この治療法には大きく分けて2種類があります。
ひとつは根管内部を拡大鏡あるいは顕微鏡で見て、ヒビの入っている部分を修復したり、あるいは歯肉を開いて骨面を露出させ、そこから歯根面のヒビを修復していく口腔内接着法です。
もうひとつの方法は歯を一度抜き、口腔外で修復し、すぐに元に戻す再植法です。どちらを行うかは口腔内の状況と術者の考え方によると思います。
当院では後者を選択する場合が多くなっています。その理由はいくつかありますが、まず、口腔外で処置を行うため、破折箇所を観察しながら、汚染部や虫歯に侵されている部分を十分に取り除くことが可能です。また、乾燥状態で処置できるため、接着が良好です。さらに、一旦、抜歯しますので、抜歯窩(歯根があった部分に相当する骨の陥没部分)に残っている悪い組織を徹底的に除去することができます。
特に破折の程度がヒビではなく、完全に分離している場合には再植法でないと対応できません。再度、歯が生着しない可能性もありますが、これまでのところほとんどありません。
ただ、一度生着したものの、その後の経過が思わしくない場合もあり、当院での成功率は概ね90%です。

最初の質問に戻りますが、歯根が破折しておらず、単に根管が感染している場合に行う治療が根管治療、歯根が破折して感染している場合に行う治療が歯根破折保存治療ということになります。

「インプラント専門医なのに歯根破折保存治療をするのですか?」

「先生はインプラント専門医なのに、どうしてすぐに抜歯してインプラント治療を勧めずに、歯根破折保存治療をなさるのですか?」
当院のホームページをご覧頂き、歯根破折保存治療を希望されてお見えになった患者さんから時々頂くご質問です。
「かかりつけの歯科医師から、歯が割れているからこれはもう抜歯してインプラントしかない!と言われて・・・」と、皆さん異口同音に、驚くほど同じことをおっしゃいます。

患者さんのなかには、出来れば残したいけれど、やはり抜歯しか方法がないなら、インプラントしかないかしら?と、(半分、歯を残すことを諦めて)、インプラント治療で検索されて、当院にお越しになる方もおられます。
確かに私はインプラント専門医ではありますが、残せる可能性がある場合、まず歯を残す治療からお勧めしています。ですので、てっきりインプラントを勧められると思ったのに、「歯を残しましょう」と私に言われて、患者さんは拍子抜けのような感じになるのかもしれません。

患者さんが疑問を持たれるのは、「インプラント専門医」という名称が一般的には、わかりにくいのかもしれません。
「インプラント専門医」というのはインプラント治療に関する十分な技術と知識を有しているという日本口腔インプラント学会から頂くお墨付きであって、ひとつの資格に過ぎず、インプラント治療だけを専門に行う医師であるという意味ではありません。
たとえて言えば、「外科医なのに、なぜ、手術ではなく、投薬で治療するの?」というようなご質問なのだと思います。外科医であっても、身体にダメージが大きい外科処置を行う前に、投薬で治療できる可能性があるなら、まずは身体に優しい投薬による治療を判断するのではないでしょうか。

私がインプラント治療の前に第一の選択肢として歯の保存をお勧めする理由、それは至ってシンプルで、私が「天然歯(ご自身の歯)に勝るものはない」と思っているからです。
確かにインプラント治療は失った歯を補うためには素晴らしい治療法で、専門医になって良かったと思っています。インプラントを応用することで患者さんの噛む機能が大きく改善されたり、隣り合った歯を削らずに済む場合も多くあります。

しかし私はインプラント専門医である前に、失われた歯を修復する補綴専門医であり、さらにそれ以前に歯を守ることを専門とする歯科医師です。口腔機能の保全に努めるプロフェッショナルとして、従前の観念では抜歯しか方法が無かった歯根破折ですが、歯を残せる可能性があるのなら、まずは歯根破折保存治療という選択肢があることを患者さんには説明させて頂いております。もちろん、以前のコラムで書いた通り、説明の結果、インプラントを選択される患者さんもいらっしゃいますが、最終的な決断は患者さんご本人にお任せしています。

インプラント治療に比較すれば、歯根破折保存植法はまだ歴史が浅く、当院でもまだ5年超の経過観察記録しかございません。ただ、この治療を受けられた患者さんには、出来るだけ長く、その歯を使って頂きたい、これが私の目指すものであり、歯科衛生士によるメンテナンスも含め、当クリニックのスタッフ全員がこの目標に向かって日々、努力してくれています。

インプラントは最後の手段と考えいただいて宜しいのではないでしょうか。