「病院は戦場」

4月29日の日本経済新聞に「病院は戦場」という記事が掲載されました。その中の記載です。

“医療スタッフの疲労やストレスは限界を迎えているという。診療中に突然、涙ぐんだ若い医師。「家族のために離職したい」と漏らす看護師。深夜勤務を終えて帰宅しても気が張ってなかなか寝付けず、就寝は午前2時ごろ。4時間後には起床する。”

私はここまで読んで思わず涙がこぼれました。私は歯科医師ですが、強く感じるものがあります。私自身、診療時間外であっても、緊急性が高い場合、スタッフを帰して一人で治療にあたることがあります。小さい頃から歯科医師である父の背中を見て育ち、また、6年間の歯科医学教育を受ける中で、そういった魂が体の中に形成されているのだと思います。

コロナ禍のなか、医療従事者は危険な現場に赴いても特別に収入が増えるわけでもなく、表彰されるわけでもありません。それでも彼らは出ていきます。
何が彼らにそうさせているのでしょうか。この記事は「人命を救う医師であるという自負だけが、今の自分を支えている。」という医師のコメントで結ばれています。

医療従事者が命の危険を冒して治療に当たる中、その一方で自粛要請を無視してパチンコに出かける人、新鮮なものが食べたいと、毎日、3密のスーパーに買い物に出る人たちもおられます。
このような方たちが感染・発病した場合にも現場の医師は治療に当たります。しかも治療費は国家の方針に協力している国民から徴収された健康保険料や税金が使われているのです。
何か理不尽な思いがします。

当院では緊急事態宣言発令後、診療日数を週5日から4日に減らしながら診療を続けています。歯科疾患でお困りの方たちがいらっしゃるからです。感染の危険性を感じながら出勤し、感染対策を施しながら緊張感を持って業務に従事してくれるスタッフには心から感謝しています。

現時点では適切な防護策が採られている場合、歯科医療スタッフと患者さんとの間に濃厚接触はないと考えられています。滋賀県の歯科医院でクラスターが発生したことが報じられていますが、これはスタッフ間での感染であり、歯科医療とは関係がありません。当該医院の患者さんからも感染者は出ていません。

これに関しては、歯科は新型コロナウイルス感染症の最前線で治療にあたっている医療現場と異なる点と言えましょう。ただ、大前提に「適切な防護策が採られている」ということがあり、医療資材の供給が極端に逼迫している現在、どこまで続けられるか?という不安があります。

幸い感染の状況は好転しつつあるようですが、第二波が来る前に、潤沢な医療資材が供給されることを祈るばかりです。

Tired female doctor in scrubs, perhaps after an exhausting surgery

「コロナと世界」(『ニューノーマル』という認識)

現在、日本経済新聞一面に連載中の「コロナと世界」というコラムに大変、興味深い内容が掲載されていました。WHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子氏に対するインタビューを記事にしたものと思われます。

「新型コロナの教訓は何でしょうか。」という質問に対し、「21世紀に入って経済や社会活動は点から線に、線から面に、面から立体になっている。今までと物事のスピードが圧倒的に違い、感染症も瞬時に拡大する。新型コロナは異常事態ではなく、『ニューノーマル(新常態)』ととらえて対策を打たなければならない」と応えられていました。

これはどういうことでしょうか。
私の解釈ですが、今回のウイルス感染は起こるべくして起こったもので、それに対し、右往左往せず、必然の事象として受け止め、それに順応して生きていく必要があると感じています。
ウイルス感染拡大は当然、忌避すべきものではありますが、それを嘆いてばかりいても始まらない。正面から受け止め、対処していくことが大切だと思われます。

 感情に左右されず、科学的に正しい行動を取ること。
 専門家の打ち出した方策をはっきりと示し、トップに立つ者はこれをやり抜くリーダーシップを発揮すること。

今の日本には後者が欠けていると感じられます。現在の日本の法律には強制力が無いといいますが、自衛隊の海外派遣に対しては憲法の解釈を強引に曲げてまで遂行するのに、事ここに至っては強い意志がみられません。もちろん国家の強制力が戦争に繋がったことを心配する声があることは承知しています。そういったことに対する配慮も必要でしょう。

この新しい常態に望んでいくにあたり、私たち一人ひとりの意識改革が重要であると思われますが、その事を認識させていく強いリーダーの出現が待たれます。

そうは言ってはみたものの、わが身を振り返ると患者さんとスタッフの健康を守りつつ、かつ、歯科医療を行うという社会的責任を果たすため、何が最善なのか、自問を繰り返しています。

お薬が与える口腔内への影響について(歯科治療と内服薬)

こんにちは、歯科衛生士の児嶋です。
今回は歯科治療と内服薬のお話です。

人間にとって、お口は食べ物が身体に入っていく過程での最初の消化器であり、身体と口腔内はお互いに影響を及ぼしあっています。

持病や常用薬によっては歯肉から出血しやすくなったり、腫れやすくなる事があるのを皆さんはご存知でしょうか?
丁寧に時間をかけて歯を磨いているのに出血する、歯肉がブヨブヨしている、こんな事はありませんか?歯肉と睨めっこをしていても解決しませんので、一度、歯から離れてみましょう。

原因はお口の中以外にあるかもしれません。
私が定期検診を担当している患者さんのお話です。
最初に拝見した際に歯肉全体に腫れがあり、プラークコントロール(ブラッシングで歯垢を除去すること)が不十分でした。
まずは口腔内の環境を整える事が大切だと思いましたので、検診とクリーニングやブラッシング指導を受けていただく為に、定期的な来院をお願いしました。

熱心にブラッシングに取り組んで下さった結果、以前に比べてプラークコントロールは良くなりました。ただ、歯肉のプクプク感は取れず、単純な歯肉炎以外の原因が考えられました。

改めてお身体や常用薬について伺うと、初診時には服用していなかったので、問診票には記入されていなかったけれども、現在では歯肉が出血しやすくなる薬を服用されている事がわかったのです。

口腔内に影響を与える主なお薬としては、カルシウム拮抗剤(降圧剤)、フェニトイン(抗てんかん剤)、シクロスポリン(免疫抑制剤)、ワーファリン(抗凝固薬)、骨粗しょう症薬、抗うつ薬や抗精神病薬など様々なものがあります。
症状としては、口腔内の乾燥や歯肉の増殖・出血などが挙げられます。また抜歯や手術の際には、注意が必要となるお薬もあり、薬の種類によってば休薬をお願いする場合もあります。

リスクがある方には定期検診の間隔の調整や、ホームケアの強化や清掃器具を変更する事がありますし、治療では、医科との連携、治療内容や時期の検討も必要となります。

もちろん、外科処置が必要な際には、事前に必ずこちらから確認をしていますが、常用薬やお身体に変化があった場合には、必ず診療前にお申し出ください。
また、歯科治療の支障になるからと、自己判断による服用中断は大変危険ですので、必ず主治医にご相談下さいね。

吉田デンタルクリニック
歯科衛生士 児嶋

院内の感染防止対策について

こんにちは、歯科衛生士の児嶋です。
寒く乾燥している日が続いておりますが、皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
この季節インフルエンザが流行しますので、気を付けていらっしゃる方も多いと思います。
外出時のマスクの着用や、帰宅時の手洗い・うがいはとても大切ですね。

最近気になっているのが、今月9日に中国で発生した原因不明のウイルス性肺炎で新型コロナウイルスが確認されたことです。
また、日本でも近年、風疹や梅毒が急増し、様々な感染症が問題になっています。

歯科治療では、唾液や血液に接する機会が多く、私たち医療従事者が感染しない事はもちろん、患者である皆さまの安全がとても大切です。

先日、当院の臨時休診日を利用して、院内感染対策の講義を受けて参りました。
今回は第二種・第一種歯科感染管理者という、専門の資格をお持ちである歯科衛生士の横井節子先生からご指導いただきました。診療器具の洗浄・消毒・滅菌の基本知識から、管理や院内の環境など細かな部分まで、専門の方から改めて説明を受ける事で気持ちが引き締まりました。

数年前、歯科医院でのタービン類の使い回しが大きな問題となりましたが、当クリニックでは、開院時より院内感染防止に力を入れており、清潔な環境で高度な治療を受けていただきたいという院長先生の想いから、スタンダードプリコーション(標準予防策)を実践しています。

スタンダードプリコーションとは感染の有無に関わらず、患者さんの汗を除く全ての血液・体液、分泌物、排泄物、創傷のある皮膚・粘膜は伝播しうる感染性微生物を含んでいる可能性があるとして取り扱う考え方です。
この考えに基づき、当院では出来るだけディスポーザブル(使い捨て)製品を取り入れ、タービンやドリル等も含め、患者さん毎に使用する全ての器具の滅菌を徹底し、安全な治療環境の提供に努めています。

吉田デンタルクリニック
歯科衛生士 兒嶋

*スタンダードプリコーションとは?
1996年にアメリカ疾病管理予防センターが作成・推奨した考えであり、国際基準となっています。
日本でも医療法に定められており、吉田デンタルクリニックの院内マニュアルにも記載されています。

AIに負けるな!歯科技工士 

院長の吉田です。
今、AI(人工知能)の発達により、将来、消え去るであろう職業が挙げられています。

歯科医師はその性格上、今のところ、対象外と言えましょう。ただ、修復物を作製する歯科技工士に関しては、いくつかの問題が浮上しています。

一つ目の問題は人手不足です。医療費の上昇が抑えられ、診療報酬が伸び悩むなか、歯科医師はコスト削減のために、修復物を作製する技工料を抑えようとします。そのため歯科技工士の収入も下がらざるを得ません。

また、技工料の安い中国等への依頼も考えられます。これでは国内で優秀な歯科技工士は育ちません。以前のコラムでも書かせていただきましたが、当院でお願いしている技工所でも、若手はすぐ辞めてしまうと嘆いておられます。

もうひとつはデジタル技術の導入です。
現在、歯科医師は歯を削ったあと、その形態を歯科技工士に伝えるために、「印象採得」という型どりをし、そこに石膏等の模型材を注入して口腔にを再現するのが一般的です。ところが、現在では写真を撮るだけで、そのデータを技工所に送り、CAD/CAMで作製し、完成したものが歯科医院に送付されてくるという世界になりつつあります。

もちろん、このデータから修復物を作成する過程に歯科技工士は関与しますが、ほとんどの部分を機械がこなし、あとの部分は誰でもできるようなシステムです。この過程に歯科技工士の「巧み」が入る余地はありません。現在の段階ではこのシステムには限界があり、従来の型取りが一般的です。

しかしながら将来、このシステムに完全に置き換わる可能性は高いです。そうなると熟練歯科技工士はほとんど必要なくなってしまいます。また、歯科医師の「印象採得」の技術も不要になり、どの歯科医師でも正確な「写真」が取れればOKというようになります。

本当に歯科技工士はいなくなってしまうのでしょうか。職人技は不要になるのでしょうか。世の中の物事の進みが非常に早く、私にも分かりません。しかしながら、この数年で大きく変わることは無いと思います。歯科技工士のみなさん、目標を持って頑張りましょう。
歯科技工士は私達 歯科医師にとって大切なパートナーなのですから。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

この歯と100年生きていく

リンダ・グラットン 著「ライフ・シフト」という本に記されているように、これからの若い人は人生が100年になっていくようです。

戦国時代の武将、織田信長の言葉に「人間50年」という文言があります。
本来は平均寿命のことを指しているのではありませんが、1600年代の人たちに較べ、2000年代の人は倍も生きていくことになりました。従いまして、臓器を含めた体もこれまでの2倍、使っていくことが要求されます。歯に関しても同じです。

「8020(ハチマルニマル)運動」というものをご存知でしょうか。
満80歳で20本以上の歯を残そうとするのが主目的で、運動が開始された1989年の達成率は15%程度でしたが、近年では50%に達したとされています。
現在、日本には100歳以上の方がおよそ7万人いらっしゃるようです。この方々に何本の歯が残っているかは不明ですが、「10020(ヒャクマルニマル)」の達成率はかなり低いものと思われます。歯には定年制度というものがないので、これまで以上に長く働くことが要求される歯も大変なことです。

では100歳まで長く歯を残していくにはどうしたらよいのでしょうか。

月並みなお答えになりますが、毎日の正しいセルフケアと、定期的なプロフェッショナルケアが大切です。定期的に歯科医院に通うことにより、歯周病や虫歯になってしまった場合でも、早期発見が可能ですし、ご自身の歯に対する意識の高まりが期待されます。

歯を失う理由としては ①歯周病、②虫歯、③歯根破折の順となっています。
当院では虫歯のチェックには目視に加えレーザーを使用しており、客観的な数値で患者さんに虫歯の状況をお伝えするのですが、「まだ痛くないから・・・」と、治療されない患者さんもいらっしゃいます。
ただ、痛みが出たら神経まで感染が及んでいる可能性が高く、神経を取る治療が必要になります。神経を取ることにより歯根破折を起こしやすくなり、歯の喪失への大きな前進です。

また、虫歯は一旦治療すれば、もう虫歯にならないとお考えの方もおられるのですが、それは大きな誤解です。修復物と歯の隙間から虫歯菌が侵入し、二次虫歯になる可能性は充分にあります。この二次虫歯になる時期をいかに先延ばしにするか?が、歯を長く残すためには、とても重要なのです。

二次虫歯を防ぐためには、詰め物・被せ物の精密な型採りを行い、丁寧な修復治療をしてもらうことに尽きますが、当然、時間と費用がかかります。しかしここで投資しておかないと、その先の治療には更に多くの時間と費用が要求され、それが受け容れられない場合には歯の喪失に向かってまっしぐらでで、とても100年は使えません。

如何にきちんとした治療を受け、再治療を先延ばししていくか?が長く使えるかどうかのポイントになります。

私はこの点をコンサルテーション時に患者さんに力説しているのですが、「前歯は綺麗なのがいいので白いセラミックにするが♪、奥歯は見えないから(精度の低い)銀歯で大丈夫♪」という方が多いのが現実です。これでは「奥歯は早く失っても構わない。」と仰っているのと同義です。
私の説明が不十分なのかもしれませんが、一度抜けたら二度と生えてこないご自分の歯を、どれだけ長く使う必要があるのか?という自覚が、残念ながらあまり認識されていないことを痛感します。

歯が無くなってしまえば、入れ歯やインプラントで修復可能ですが、入れ歯はその使い勝手からQOL(生活の質)が下がることが懸念されます。またインプラント治療は外科手術を伴いますので、誰でも簡単に受けられる治療ではありません。
また、受けられたとしても、高額な費用とエネルギーが要求されます。(抜歯を宣告されたが、抜歯したくないとお考えの方は、歯根破折保存ページを参考になさってください。)

皆さん、頑張ってご自分の歯を100年使いましょう。しかし、かく申す私も昨年、1本の歯を失ってしまいました。残った27本をあと40年使っていかなければ!です。

歯科医師人生における4人の師 ②

前回に引き続き私のメンターと言える4人の先生のうち、残りのお2人について紹介させて頂きます。私が歯科医院を開業してからお世話になったカリフォルニア在住のTeru Harada(てる はらだ)先生と、眞坂歯科医院の眞坂信夫(まさか のぶお)先生です。

まずHarada先生についてです。
私がまだ開業して間もないころ、カリフォルニア州パロアルトで開業されている同先生によるドーソン咬合(噛み合わせ)理論の講習会の案内が歯科雑誌に掲載されていました。咬合が極めて大切である歯科補綴(しかほてつ)学の講座に在籍していたにもかかわらず、確固たる咬合理論を身につけていないことがずっと気になっていた私は、思い切って数日間休診し、この講習会に参加しました。

日本語と英語が混じる奇妙なレクチャーでしたが、その内容に感銘を受け、その後も5回、先生の講習会に通いました。その後、Harada先生が来日してレクチャーをするようになったため、日本でのコース開催に携わるようになりました。
下の画像は2005年に当院で行われた講習会のものです。

Harada先生からご教示頂いた咬合理論は現在の私の治療の根幹となっています。
この咬合理論の習得無くしては自信を持って治療を行えなかっただろうと思うと、思い切ってパロアルトに行って良かったなとつくづく思います。Harada先生は数年前にリタイアされ、お目にかかる機会もなくなりましたが、私の好きなワインの産地ナパ・バレーにも近い先生のお宅をまた訪ねてみたいと思っています。

最後は破折歯保存治療についてご教示頂いた眞坂信夫(まさか のぶお)先生です。
東京歯科大学の大先輩ですので、以前からお名前は存じあげておりましたが、6年ほど前、大学の同窓会主催の講習会で歯根破折の治療についてお話を伺う機会を得ました。

学生時代、大学では破折した歯の治療方法は抜歯と教えられてきましたので(現在も同じだと思います)歯根破折症例に対しては、私もそれまでは教科書通りに何の迷いも無く抜歯を行って参りました。

歯根が割れた歯を残すことができるなんて、まさか(眞坂)ね・・・」と、最初は半信半疑だったのですが、先生のお話が進むにつれ、治療の理論背景がしっかりしており、長期の経過症例を見せていただいたことにより、頭の中に一筋の光が走ったような衝撃を感じました。

その後、眞坂先生が個人的に講習会を開催していることを知り、すぐに参加いたしました。以来、この治療法を自分の臨床に導入し、多くの患者さんの歯を保存することができました。

私の専門は失われた歯をインプラントブリッジ・義歯などで補うこと=補綴(ほてつ)ですが、歯を失わずに済めば、患者さんにとってはその方が遙かに望ましいことだと思います。
実は、私自身の歯にも信頼できる先生に本法で加療していただき、1本保存することができました。自分自身で受けているのでよく分かるのですが、歯を抜かずに残せたときの喜びは非常に大きいものです。受付で涙を流される患者さんもおられます。

このような治療法を開発され、ご自身の専売特許とするのではなく、後輩の歯科医に教えて下さった眞坂先生には本当に感謝しております。私より17年先輩ですが、非常にお若く、自ら講習会や勉強会を開催され、またWEB会議を取り入れるなど、新しいことにもどんどん挑戦されているお姿には感動させられます。

ここまでに紹介させていただいた4人の先生方、いずれが欠けても、歯科医師としての現在の私はありませんでした。このような先生方に出会う機会を与えて下さった神様に感謝せずにいられません。

4人の先生方から教えて頂いたことは、私もいずれ、後輩達に引き継いでいきたいと考えております。

歯科医師人生における4人の師 ①

歯科医師となって35年の月日が流れました。
この間、多くの方から様々なことをご教示頂きましたが、その中でも特にメンターと言える4人の先生がいらっしゃいます。今回はこれらの先生方とのつながりについてお話ししてみたいと思います。

まずは東京歯科大学を卒業し、歯科医師人生を踏み出した24歳の時、大学院生として入局した歯科補綴(ほてつ)学第三講座主任教授、関根弘(せきねひろむ)先生です。

当時、新人の大学院生には「教授当番」という仕事があり、同期の新人5人と交代で一日中、教授のお世話をする日がありました。
まず教授が出勤されるとコーヒーを煎れ、教授室に予定表を持って行き、1日の予定を確認します。
教授が出かけられる際には自分の車で駅まで送迎します。
昼食時には学生食堂で列に並んで食事を教授のテーブルまで運びます。
学生の授業では、板書が済んだ部分を、タイミングを見計らいながら黒板消しで綺麗にしていきます。
夜も教授の予定が空いているときは、夕食をご一緒させていただきました。

今思うと、昔の書生のようなもので、小説「白い巨塔」に出てくるような生活でした。
もちろん緊張感はありましたが、カリスマの塊のような先生から直接、研究者、教育者としての基本を教えて頂くことができ「教授当番」は、私には全く苦にはなりませんでした。

私の父が関根先生と大学の同級生で仲が良かったこともあり、可愛がっていただきましたが、20年前に急逝されました。東京歯科大学学長や日本歯科医学会会長までされており、日本の歯科界にとっても大きな損失だったと思います。
私が尊敬する4人の先生方のなかで、ただ1人、故人となってしまいましたが、結婚祝いに頂戴した優雅な置時計が、自宅の机の上で25年以上、私をゆっくり見守ってくれています。

2番目は同じく東京歯科大学で講座の大先輩で、インプラント治療に対する歯科医師の心構えと技術を教えて頂いた小宮山彌太郎(こみやまやたろう)先生です。

小宮山先生は私が大学院に入学した年、丁度、スウェーデン留学から戻られました。自分では勝手に運命的な出会いだったと思っています。
私には同講座で初めてインプラント関連の研究テーマが与えられ、小宮山先生が論文指導者となられました。勉強や学会発表のための海外出張も多く、朝から晩まで一緒に過ごさせて頂き、学会発表の手順や他の研究者との付き合い方など、多くを学ばせて頂きました。また、私の長期にわたるスェーデン出張の際には、小宮山先生のご家族と同じ屋根の下で過ごさせて頂きました。

大学でご一緒させて頂いた間、私は先生の背中を見ながら育ったと言っても過言ではありません。
小宮山先生を通じ、近代インプラント治療の祖であるブローネマルク教授に孫弟子として師事することができ、そのご縁でベルギーのリューベン大学に留学する機会を得ました。
現在はどちらも都内で開業している身ですが、何かにつけ相談にのってくださる有難い師です。

昔話のようで恐縮です。
長くなりましたので、残りのお二方については次回のコラムで紹介させていただきたいと存じます。

吉田デンタルクリニック
院長 吉田 浩一

歯科を外から眺めてみる

先日、長く定期検診に通って下さっている患者さんとお話していて、数年前に退職した歯科衛生士の話題となりました。彼女は2年ほど前に手を痛め、歯科の仕事を離れたのですが、その技術と優しい物腰で、患者さんからも院長先生からも絶大の信頼を得ていた優秀な衛生士さんでした。
このブログをお読みになっている当院の患者さんがおられたら、あの衛生士さんかしら?と思い浮かぶ方もおられるかもしれません。

どうしているかしらと懐かしくなり、久しぶりに連絡を取ってみました。暫くしてお返事が来たのですが、やはり今は歯科のお仕事には就いていないとのこと。ただ、歯科の世界を離れ、一般の方とお話ししていると、そのギャップに驚くことが多いとも書いていました。
歯科の専門職ならあまりにも当たり前のことでも、患者さんにはわからないことが沢山あるということなのだと思います。彼女も数年前までは歯科の専門職として診療室におりましたので、歯科界の外に出て、驚いたことが多いということなのだと思います。

彼女が言いたいこと、私は良くわかります。私は受付職ですので、歯科の専門教育は受けておりませんが、治療の内容を知らなければ患者さんとお話できませんので、経験と聞きかじりの知識はありますが、基本的には患者さんと同じ一般人です。
ですので、院長先生は衛生士さんが当たり前と思うことでも、患者さんはわからないのでは?と思うこともあります。そのような場合、診療が終わって待合室に戻られて、頭の中が?マークでいっぱいのような患者さんには積極的に話しかけて疑問を伺い、場合によっては診療室にお戻りいただいて、再度、院長先生に説明していただく場合もあります。

この衛生士さんは、ゆくゆくは歯科医院と一般患者さんのギャップを縮め、うまく取り持つような仕事をしたいとも書いていました。優秀な衛生士さんが臨床を離れてしまうことはとても残念ですが、ただ、当院の卒業生がそのように将来の目標を持ち、ステップアップして頑張っていることはとても嬉しく思います。もう母の気分ですね。(笑)

私が出来ることと言えば、せいぜい当院の中で診療室と待合室を結ぶくらいですが、この衛生士さんはきっともっと影響力のあるお仕事ができると思います。当院で彼女のお仕事のお手伝いできることがあれば、是非、声をかけてね!と、彼女へのメールを締めくくりました。

吉田デンタルクリニック
受付 菊地

abstract character on the white background

開院20周年を迎えて ― 医療は人なり

吉田デンタルクリニックは2017年4月12日で開院20周年を迎えました。
これまで沢山の方々に支えて頂き、私の好きな仕事を続けてこられたことを、この場を借りて皆様に深く御礼申し上げます。
20年前、大学病院の勤務医から、いきなりこの東京のど真ん中で開業し、自分の考える最良と思う診療を行ってきたつもりですが、ここで一旦、過ぎし日を振り返り、またこの先のことを考えてみました。

この20年間、歯を失ってお困りの方にはインプラントブリッジ・義歯などを、噛み合わせでお悩みの方には咬合治療を、また、この5年ほどは、歯の根が折れたり割れたりして、かかりつけ医からは抜歯しかないと言われたが、何とか抜かずに残したいと希望される方々には歯根破折保存治療を、というように、できるだけ患者さんのご要望に沿えるよう、一生懸命、診療を行って参りました。

私は基本的に楽観主義者で単純な人間なので、患者さんに「有り難うございます」と言って戴けると、「あぁ、上手く行ってよかったな」と言葉通りに素直に受け取ってしまいます。けれども、いくら私が頑張ってみても、どうしても人智の及ばない領域で、残念な結果に終わる場合もあります。ここで考えてみたいのは、そのような場合、治療を受けられた患者さんがどう思われているのか?ということです。

昨年ですが、NHKの「ドクターG(ジェネラル)」に出演された高名な心臓血管外科である南淵明弘先生の一言に非常に感銘を受けました。それは「医療においての成功(率)とは医者が決めるのではなく、手術を受けた患者さんが術後、元の生活に戻り、治療を受けて良かったと思ってくれて、初めて成功と言えると思います。」という内容でした。
私が以前、破折保存治療の経過について書いたコラムで、“成功率は概ね87%”などと書かせて頂きました。この治療を検討されている患者さんの参考になればと出した数字なのですが、全く医者側の成功率であります。人の生死にかかわる難手術を行う大変な名医であられるのに、謙虚な南淵先生のお言葉を聞き、私は己の未熟さを痛感しました。

同じ心臓血管外科医で天皇陛下の手術をされた天野篤先生の著書の中にも「病を癒やすは小医、人を癒やすは中医、国を癒やすは大医。せめて中医になれるように努力しなさい。」という一文があります。これもまた、私の心に響きました。

開院20年を経て、私と一緒に患者さんも歳を重ねてこられました。お見送りした方も数名おられます。歯以外にもご病気がある方、ご家族の介護などで時間が取れず、ご自身の治療に来たくてもなかなか診療に来られない方も増えて参りました。いくらインプラントや補綴治療の専門医と言えど、全身疾患や、生活環境など、患者さんのバックグラウンドを知らずに口腔内を見ているだけでは歯科医は勤まらないですね。あと数年で還暦となりますが、まだまだ人間が出来ていないと、最近つくづく思います。

「医療は人なり」これは私のモットーであり、吉田デンタルクリニックの基本理念であります。
この理念は当院スタッフと共有しているのですが、患者さんにも「吉田という歯医者に診てもらってよかった」とおっしゃって頂けるよう、技術を磨き、患者さんに寄り添う気持ちを忘れず、30周年に向けて研鑽を積んで参ります。「医療は人なり」です。