嬉しい誤算

東京オリンピック開催まであと1か月をきり、「感染拡大リスク低減のため、中止ができないならせめて無観客を」、と提言する専門家の意見はスルーされ、有観客での開催となるようです。

IOCのバッハ会長が以前、日本人の真面目な国民性に触れ、「日本人だったらオリンピックが開催できる」、という精神論的な発言をされましたが、このような発言を聞くと、私はどうしても後から考えれば無謀であった太平洋戦争を思い浮かべてしまいます。

日米開戦前、軍事力を分析した日本軍中枢部は、アメリカに勝てないことは既に分かっていたと言われていますが、それでも戦争に突入してしまいます。どうしても戦争を回避できない理由があったのでしょうが、今回のオリンピックもそのような状況なのかもしれません。

「戦(いくさ)は時の運、どちらが勝つか、やってみないとわからない」と、戦国時代の武将風に考えれば、オリンピックもやってみたら案外、感染爆発も起らず、成功裏に終了する可能性も有るかとは思います。

ただ、医療に携わる者の一人としては、「やってみないとわからない」ことはできれば避けたいですし、やらなければならないなら、心配性過ぎるくらいの慎重さで、最悪の状況を想定してスタートすべきではないかと思います。

ここ数年、当院では歯根破折を主訴とされる患者さんが多いため、どうしてもコラムがその治療中心となってしまうのですが、一口に歯根破折と言っても、破折した歯の部位、期間、その割れ方、周囲の骨の状況、歯ぎしりや噛みしめの有無など、患者さんの状況は様々です。
好条件が揃えば良いのですが、そうでない場合、リスクを冒して治療をしても、良好な予後が期待できないと考えた場合、患者さんには率直に状況を説明し、他の治療の選択肢を考えて頂くこともあります。

ただ、なかには「治療費を倍払うから、どうしてもやってほしい」と仰せの方もいらっしゃいます。
最近、そのような難症例が2症例あり、患者さんの熱意に押され、(もちろん通常の診療費で)治療を行ったところ、なんと2症例とも私の想像を覆し経過が良く、1名は既に被せ物が入りました。
末期がんの患者さんが余命3カ月と宣告されたのに、もう1年以上存命している、というようなお話は良く聞きますが、その人が持っている治癒力・生命力というものは現在の科学の力では解明できないようです。

これらの症例は私にとっては嬉しい誤算でしたが、残念ながら逆の場合もあり、治療途中で止む無く抜歯に至ったケースもあります。現在の口腔外接着法の症例数は概ね800症例ですが、脱落あるいは抜歯となったケースは、私が把握する範囲で77症例あり、治療開始初期の2012年から2014年にかけての時期に多く認められます。

楽観論で始まる東京オリンピックでは、「嬉しい誤算」は期待薄でしょうから、せめて終了後の日本が、少しでも早く、コロナ以前の日本に戻ることを祈るばかりです。

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